3台のトヨタパトロール






きっかけは、また1枚の写真


『別冊ベストカー・パトカーデラックス』(三推社・講談社、旧版2002年4月)に、『パトカー五十年史』(文・丸田祥三氏)という特集記事があり、これは古いパトカーの写真資料の宝庫なのですが、この69ページに、何とも不思議な車両の写真が掲載されています。
(同誌は2003年に大判(A4判)化されて『パトカーデラックスNEW』となったのですが、残念なことに『パトカー五十年史』は『懐かしのパトカーアルバム』という企画になり、一部を除いて、初期パトカーの写真はなくなってしまいました。)

旧版のこの写真の解説記事を引用してみましょう。
『50年代後半、警視庁に1〜2台あった不思議な改造車。59年より始まったパトカー増強計画のための試用車だったのかもしれない。車体は初代クラウンのそれを改造したもの。長いノーズの中にはおそらくランクル用のF型エンジンが載り、大きなトランクには大型無線機が搭載されていた、と推察される。(写真・毎日新聞社提供)』

以前に「だっと」さんからご提供いただいた写真(『CAR GRAPHIC LIBRARY・世界の自動車−33トヨタ』五十嵐平達著・二玄社・1972年初版)の中にも、この怪しい2シーターのものがあり、「BH26、FH26 トヨタパトロール」の流れとして紹介されています。

1/32で、3台のトヨタパトロールを並べてみたい


確かにノーズ/ラジエータグリルはBH/FH26のままのようですから、4シーターのBH/FH26のキャビンを切り詰めて純粋2シーター化し、交通パトカー化したもの、と考えるのが順当でしょう。エンジン/シャシともにRS系クラウンのものではなく、F型エンジン・H系シャシと考えられます。「ふくおかほんぶ」さんも、2004年09月14日のBBSへの書き込みで、『トヨタFH/BH26のツーシーターの交通pcと同じ塗り分け』という表現を使われています。

なぜ2シーター化するか、というと、ボディを軽量化してパフォーマンスを向上させるのがねらいか、と思うものの、しかし高速道路網の整備などまだまだおぼつかない1950年代後半というタイミングでは、その着想はあまりにも先進的、と言えるのではないでしょうか。
(名神高速の全線供用が1965年7月、第三京浜の全線供用が1965年12月です。)

「1〜2台あった」という書かかれ方からして、生産・就役数はあまり多くはなく、試験的な車両であっただろうことは推測できます。(警視庁にあった「1〜2台」が全てとは言い切れず、トヨタお膝元の愛知県警あたりにもあった可能性はあるわけです。)
写真解説には「改造車」とありますが、警察の整備工場で改造されたようなモノにも見えないので、トヨタが少数を試作・生産したものと考えるべきと思います。
したがって、トヨタでは「BH/FH26・2シーター」ではなくて、固有の型式番号が与えられているのかもしれません。元祖「トヨタ・スポーツ」と言えるのではないでしょうか。

とは言え、もはや「クラウン」とは言えない姿が極めて魅力的で、現在のパトカーとは異なった白/黒の塗り分け方が妙にマッチしています。4ドアのBH/FH26を褒めていただいたことに味をしめて、この2ツーシーターを作ってみることにしました。
そしてどうせなら、ということで、モデルペット製のミニカーやニチモのプラキットのせいで、私の子供時代からの「トラウマ」になっているFS20を作り、前作のBH/FH26を加えた「トヨタ・パトロール3台」を並べてみることにしました。



「モデル・カーズ読者コンテスト 第50回・トヨタ車」に『トヨタ・パトロール・3題』のタイトルで応募、2005年3月号(2005年1月26日発売・第106号)97Pに掲載されました。

※「コンテスト応募3回以下」部門での「新人王」をいただきました。「トヨタパトロール」の写真資料のご提供をいただきました、「inomamo」様、「だっと」様、「ふくおかほんぶ」様、ほか皆様にあらためて感謝申し上げます。

実は応募にあたって、いつものようにデジカメで撮り、プリントアウトしたのですが、色が妙になるわ、線がギタギタになるわで、これではダメだ、ということになりました。アナログの一眼レフを引っ張り出して来て再撮影し、アナログ/デジタルのプリントを混ぜて送りました。結果的に掲載された写真は全部アナログ写真のようです。比較的いい写真を選んで送ってしまったので、掲載分と同じ写真は手元に残っていないのです。それで以下はいつも通りのデジカメ写真になります。

比較的新しいオート一眼は、絞り値を大きくしているのに、ピントが深くならず、閉口しました。
マニュアル一眼レフは壊れちゃっているので、この次はコレを直して撮るつもりです。



Three models of "Toyota Patrol" in late 1950s-early 1960s

In 1950s,performance of Japanese producted cars were not enough to execute thier duties, and have poor reliabilities.This is because the General Head Quaters of allied forces considered that the auto industry colud make weapons, so Japanese automobile production had some blank term in occupied years.

Just 50 years ago,"1955 Toyota Crown RS" is the first car which had sufficient performance and reliability for cruising in cities and countries, but it was not enough to complete law enforcement duties.
So Toyota Motor Corporation provided Japanese police forces several type of cars which were mounted high performance engine in the Crown's body. "Toyota Patrol BH/FH26" mounted "B" or "H" type engine for "Land Cruiser" on "H" type chassis for Toyota cargo track.They had four-door and two-door body which was based on "1955 Crown RS".And "Toyota Patrol FS20 & FS40" did continue to mount "F" type engine in 1960s until Crown gained sufficient performance.

I tried to make convirsions for these "F" type Toyota Patrols from ARII 1/32 construction kits.These works have been reported by Japanese model car magazine "MODELS CARS" #106 issued by Neko Publishing,January 2005.

Left: Toyota Patrol FS20 in early 1960s
Center: Toyota Patrol BH/FH26, two-door two-seats trafic pursuit in late 1950s
Right: Toyota Patrol BH/FH26, four-door radio equipped police cruiser in late 1950s



まず「謎の2シーター」から


ベースとなったキットは、全てアリイ(現マイクロエース、旧エルエス金型)の1/32・トヨペットクラウンRS(1955)です。(何度も書いていますように、アリイやエブロが製品化しているクラウンRSの制服PC(白黒パトカー)というものは実在しません。白黒でない捜査用車両であれば使われているかもしれませんが。)

2シーターは4ドアのBH/FH26と同様にエンジンルーム延長することに加え、ルーフを切り詰めてリアウインドウを前進させます。
ホイルベースはRSクラウンとほぼ同じと考え、フロントオーバーハングだけを延長。
延長したのは「模型映え」を考慮し、BH/FH26の時と同じ10mmです。



キャビンの2シーター化に際しては、キャビン部分をボディ輪切りで切断することはせず、ルーフの後半分をいったんボディから切り離した後、ルーフを短くしてから再接着します。
この後にFS20を作ってあらためて思ったことですが、やっぱりアリイ(旧エルエス)のキットは前後に圧縮デフォルメされているようで、キャビンも、ボンネットも、例えばモデルペットに比べると随分と短く感じます。ですから、キャビンを2シーター用に詰め、ボンネットを延長するということは、エルエス金型の欠点を補正することにもなるわけで、この2シーターが、3台の中ではプロポーション的には一番良好な結果になったのではないか、と思っています。




ラジエータグリルは4ドアBH/FH26と同一のはずですが、別々の時期に作ったために、少々表現が違ってしまいました。前作の4ドアでは厚みがありすぎ、今回の2シーターでは上下の幅がありすぎる結果になっています。シリコンで複製用の型を作っておけば良いのですが、つい工程的に面倒臭くなって、その都度1個ずつ作っているのがいけないようです。

屋根上は回転灯ではなく点滅灯。4ドアに付けた腕木式方向指示器はなし。4ドアでは右側だったモーターサイレンを、写真に準拠して左側に付けます。(ナンバーが読めるので左右逆版ではありません。)
タイヤを実車写真と同様のホワイトリボンとし、リーフリジッドらしきものを車体下面に付けました。前・横から見た時に意外に見えてしまうからです。



『パトカーデラックス』の写真解説では、『大きなトランクには大型無線機が搭載されていた、と推察される』とありますが、作業をしてみて思うには、トランク・コンパートメントを拡張しようとしたわけではなくて、リアウインドウを前進させ、リアシートを撤去すると、必然的に車体後部が広くなってしまうのですね。Y130セドリックなどでもトランク内に大型化したバッテリーを積んでいますが、果たしてこれほど大きな無線機を積んだかどうかには疑問が残ります。この時代の無線機は真空管を積んでいて大きいとは言え、警邏無線車は通常の基幹系が送受信できればいいわけで、特に大型・大出力の無線機を持っている必要はないだろうとも思われます。

FS20は私の「パトカーモデル」の原点


FS20は、写真で見る限り、ボディに関してはエンジンルームの延長などはされていないようです。「FS20」ということは、クラウンと同系のS系シャシに、F型エンジンをマウントしているということですが、BH/FH26でF型エンジンを積むに際してエンジンルームを延長しなければならなかったものが、何故FS20では延長なしで納まっているのか?? は考えてみれば不思議なことです。

しかし、前述の『パトカーデラックス』(2002年旧版)71Pに、FS20の上面・側面を撮った写真があり、これを見る限りではBH/FH26のようなエンジンルームの延長は無いものと判断できます。
(この写真は毎日新聞社提供・渋谷区内銃砲店でのライフル乱射・たてこもり事件(1965年7月29日)の時の写真で、『警視庁百年の歩み』377Pのものと一連の写真。2台ともFS20だと思うのですが、2台のうち1台は回転灯を、1台は前後左右の4面にレンズのある点滅灯を付けています。画面左右奥に、あと2台FS40が写っています。

※警察部隊はこの後ガス弾を使用してマル被確保。ドアや、『警視庁百年の歩み』の写真ではトランクも開けて盾にしていますが、小銃弾を至近から発射されたらら貫通しかねないでしょう。それとも「トヨタ・パトロール」には防弾鋼鈑が入っているのでしょうか。



アメリカ車の影響を受けたテール・フィン、テールランプ回り、「うわまぶた」が張り出した形になっているヘッドランプ回りにエポキシパテを盛って成型。ラジエータグリルはプラを切り抜いてフレームを作り、裏から金属メッシュを貼ってあります。
スモールランプ位置などにもキットのRS系とは微妙な違いがあります。資料が白黒写真ですが、ラジエータグリル前面にあるのはフォグランプで、前面警光灯ではないようなので、赤には塗りませんでした。

今頃になってアリイキットの寸法を測ってみる


モデルペットやJ43の「クラウン」に比べるとかなり全体に寸詰まりですが、ボディ延長などの加工はしませんでした。
3台ともキットよりも車高を上げているのですが、FS20については、寸詰まりイメージを緩和する意味でももう気持ち低くても良かったかもしれません。

どうも、もともとのアリイキットのフォルムに疑問が残るので、今頃になって寸法を測り実車の1/32の数値と比較してみましたキットが再現しているクラウンRSでは、全長4,285mm、全幅
1,680mm、全高1,525mm、ホイルベース2,530mm、トレッド1,326mm(前)〜1,370mm(後)となります。

実車(クラウンRS)
 1/32での数値
アリイのキット実測値
全長
4,285mm
133.9mm
129.0mm
全幅
1,680mm
52.5mm
50.0mm
全高
1,525mm
47.7mm
約47.0mm
ホイルベース
2,530mm
79.1mm
約79.5mm
トレッド(前)
1,326mm
41.4mm
約43.0mm
トレッド(後)
1,370mm
42.81mm
約43.0mm

全高・ホイルベース・トレッドについては、手元の完成品は皆、足回りを適当に改修してしまっていて、キットをクラウンRSとして素組みしたものがないので、誤差があるかもしれません。

1/35のダッジ3/4トンと並べた時に、クラウンのキットが大き過ぎるのではないか、とも思ったのですが、そんなことはないのですね。1/32スケール値は、全長・全幅でキットよりさらに大きいことがわかります。形が丸いので小型車のような印象がありますが、確かに「メガウェブ」でRSD実車を見た時にも随分大きく、腰高に感じました。キットはRSとして考えても、「寸詰まりデフォルメ」というより、全長で5mm近くも足りないようです。

全長は、RS21型(クラウン・デラックス・オーバードライブ付き)で4,365mm、RS31型(1900デラックス・トヨグライド付き)で4,410mmと、どんどん長くなっており、1/32ではそれぞれ136.4mm、137.8mmとなります。
キャビン、エンジンルーム、トランク・コンパートメントでそれぞれ2mmぐらい延長するとプロポーションも良くなるのかもしれませんが、まぁ、そこまですることもないか、と思います。S系シャシのホイルベースは2,530mmで一貫していますので、ボディのオーバーハングが変化しているのでしょう。



フロントグラス/リアウインドウのピラーをカット。ワイパーは左右からかぶさって来る形で、RSのままの状態でいいようです。ボンネットにボリューム感があるようなので、若干パテ盛りしました。ボディサイドのモールを削り取って、作り直します。
ホイルキャップは明らかにRSのものとは違うのですが、手ごろなものがなく、銀の塗り方を変えるだけで、そのままにしてあります。アリイの他のキットのものもいくつか物色したのですが、タイヤ径が違っていました。

エンジンルーム左にモーターサイレン、右に呼びかけ用ラウドスピーカーを設置。BH/FH26系と差別化するために、屋根上には回転灯(アリイのパトカーにはじめから入っているパーツ)を付けました。屋根上の無線アンテナは、「渋谷銃砲店事件」の写真から取り付け位置と長さを判断。
ナンバープレートの「8 た 1366」は、パトカーデラックス』(2002年旧版)70Pで、西新井大師に交通安全祈願に来ている車両。ただしこの車両は警視「604」号ですが、あり合わせデカールを使った関係で白の数字が無く、警視「618」号になってしまいました。これもちょっと大き過ぎたようです。窓周りのサッシ/モールのとりまわしなどは、写真が不鮮明なこともあって、あまり自信がありません。



トランク上の「TOYOTA」「Patrol」エンブレム、テールランプ、バックランプなどを自作。リアウインド越しに白いヘルメットが見えている写真があったので、これを再現。1/35・米軍M1スチール・ヘルメットです。おそらくFS20以前では「緊急車を運転する時はヘルメット着用」といった規則もなかったのかもしれず、FS20の時代になってそういった運用・保安面での法規も整備されて来たのでしょう。

マーキングは「警視庁」のもので、FS20の時代になってからは「警視廳」書体を付けた写真は見たことがありません。 

ニチモ製の古いキット(ラジエータグリルなどにブリキパーツが入っているもの。『カー・マガジン1991年1月増刊・モデルカーズ11号』94Pで紹介)を入手しようか、と時たま思うこともあるのですが、オークションで12,000円〜17,000円ぐらいしているのですね。仮に入手しても、キットのままで置いておくか、作ってしまうかでまた迷うでしょうから、とりあえずはこの改造モデルを眺めて満足することにします。



FS20系についても、「2シーター」と同じ白/黒旧塗り分けの車両があるようで、別冊 一億人の昭和史『昭和自動車史』(毎日新聞社・昭和54年(1979年)発行)の186P下の写真で確認できます。ただこの車両はグリルのパターンが違い、縦格子になっているようです。
この塗り分け方は、いつぞやBBSで話題になった(日本のパトカーの白黒水平塗り分けは、米軍MP車の塗り分け方にルーツがあるという情報)、米軍MP車の塗り分けと、現在の白/黒水平塗り分けの中間過渡期の姿であるようにも思えます。この塗り分けは、フランスのルノー4CVなどにも似ていて、なかなかオシャレだと思いませんか??

BBSで画像貼り付けしていただいた、FS20の黒1色の捜査用車も魅力的ですが、ラジエータグリルをもう1個作るのがしんどいので、エネルギーが回復したら、またやってみましょう。
この1/32ラインアップにFS40を加えるとしたら、マルサンのスロットレーサーのキットを捜すしかないのが頭痛のタネです。『モデル・カーズ』誌の今回のコンテストで、1/32のRS40をフルスクラッチで作ってしまった方がおり、なんか追い込まれている気分です。


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