ノレブによるCIJ復刻品を検証する

Les reproductions de CIJ par Norev





突然にCIJの復刻品を大挙発売したノレブ


ノレブが「CIJ」(セ・イ・ジ)や「スポット・オン」の復刻品を出す、と聞いて驚かれた方も多かったのではないでしょうか。「復刻」と言うのは、これまでの常識から考えれば、かつての生産品用の金型を再利用して行うことが、いわば「常識」となって来たからです。

トミカの数々の復刻品は、自社が保管している金型を利用したものですし、かつて可堂玩具が旧大盛屋の金型を「偶然に」発見して行ったミクロペット・フリクションシリーズの復刻(スカイラインとベレル)、プラキットの世界では米国レベルの「ヒストリー・メーカー・シリーズ」など、いずれもがそうでした。ノレブが「CIJ」や「スポット・オン」製品を復刻するということは、それらの金型を入手したものと考えて当然だからです。
コレクターとしては、一時はダイキャスト・ミニカーの世界に金字塔を打ちたてながら、早々に市場から姿を消して行ったこれらのブランドの金型が、一体どこに保管されていて、かつノレブの手に渡ったのか、という点にまず大きな興味が沸くことは言うまでもありません。

ところが、「ルノー4CVは復刻品の方が大きい」というウワサを耳にするのですね(例えば『モデルカーズ』2008年6月号(145号)・p11/p14)。
同じ金型を使用している限りは、サイズが違う、という現象は起きないわけであって、全く余計なお世話と思いつつも、自分がオリジナルを持っているモデルと同じものの復刻品を入手して、比較をしてみることにしました。(2008/6/15)




近年ミニカーの世界では、オールド・ブランドの商標権を新興メーカーが買収することが盛んなのは、ご存知の通りです。「シュコー」ブランドを獲得したディッキー・シュコー、「BUB」ブランドを獲得したプレミアム・クラシックス等です。果たして「CIJ」ブランドの権利関係はどうなっているのでしょうか。

EU(欧州連合)としての連携を強めているヨーロッパ各国は、「欧州共同体商標」(コミュニティ・トレード・マーク=CTM)という制度を立ち上げています。欧州共同体商標・意匠庁(OHIM)というところに商標を出願・登録すると、EUの加盟国全体をカバーする商標権を確立できます。ただしCTMは、欧州各国内の既存の商標権には影響を与えないので、各国国内商標にも、CTMにも、またその両方にも出願ができます。

CTM商標はWeb上で簡単に検索することができます。(http://oami.europa.eu/en/default.htm)
私はノレブ社が、「CIJ」「EUROPARC」などの商標を獲得していることを期待したのですが、残念ながらCTMとしての「CIJ」の登録は発見できませんでした。「Compagnie Industrielle du Jouet」「C.I.J.」「JRD」「J.R.D.」ともに登録を発見できません。

「NOREV」は「NOREV, Societe Anonyme」(「Societe Anonyme」(ソシエテ・アノニム)は株式会社)が、「SPOT-ON」は国際分類上のそれぞれ異なった類別を指定商品・指定役務として複数の権利人が登録をしていますが、この中にも「NOREV」の名前はありません。国際分類では「玩具」は商品類別・第28類に該当しますが、そもそも第28類で「SPOT-ON」の登録も発見できませんでした。

ちなみに、「Schuco」「SCHUCO PICCOLO」は「DICKIE-SCHUCO GmbH & Co. KG」が、
「DINKY」は「MATTEL, INC.」、「DINKY TOYS」は「Brandconcern BV」、
「CORGI」は「Corgi Classics Limited」がCTMとしての商標権を保有していることが確認できます。
「DINKY」と「DINKY TOYS」の権利人が異なっていることなどが気になりますが、それはまた別の機会のことにしましょう。

ノレブがこれほど「大々的」に復刻シリーズを販売する上では、当然フランス国内だけでなく、欧州市場全体、あるいはグローバル市場を視野におさめているはずで、もしノレブが「CIJ」「EUROPARC」などの商標権の譲渡を受けているのであれば、当然CTM(欧州共同体商標)の出願・登録のアクションを起こすものと考えるのが自然です。したがってCTM検索で発見できないということは、ノレブ社が「CIJ」商標の獲得に至っていないのではないか、という疑念をもたらします。
(フランス国内で、「CIJ」の商標が存続している可能性がありますが、残念ながらフランス特許庁の商標データベースをフランス語で検索する能力が私にはありません。)

ということは、「CIJ」「SPOT-ON」の商標権や金型を、一体のものとしてノレブ社が取得した、ということとは少し違う状況の予感がします。ここまでの情報を持った上で、具体的にモデルを見て行きましょう。


※もし「CIJ」の商標を、ノレブ以外の権利人が保有している場合には、ノレブ社はその人(または会社)にお金を払い、限定的な契約関係の下で、今回の復刻シリーズ上での商標表示をしていることになります。復刻品の中に旧J.R.D.系製品が含まれないこと、復刻製品では特定時期に使用された「CIJ」商標だけが表示されていることなどから、復刻に際しての何らかの契約上の制約の存在も予感させます。



ノレブの開設しているサイト上のWebカタログで確認できるモデルは、いまのところ以下の32点です。(2008年6月15日現在/http://www.cij-europarc.com)

全長10cm/15cmなどと表示したモデルは、標準スケールでのダイキャスト製品より古い時代の、ラージスケールのモデルです。また、ミニカー・パッケージ同梱のミニカタログに掲載されているモデルは、以下リストで「」印を付けた15点です。

さらにWebカタログ上で「epuise 」(エピュイゼ/「枯れた」「使い切った」といった意味)の表示のあるものが3点あり、これは「生産終了・メーカー在庫なし」の意味でしょう。
例によって日本語HTMLでは、フランス語商品名(ただしこれはCIJのものではなく、あくまでノレブによるもの)のフランス語アクサン記号が表示できませんので、ご了承ください。

※「P.T.T.」はPoste, Telegraphes et Telephones (郵便・電信・電話局(省)で、1959年以前の
 呼称。以下では便宜的に「フランス電電」としました。)

ミニ
カタ
ログ
ノレブ品番
ノレブでの製品名
対 訳
対応CIJ
品番
備考
カラー
C03300 Renault Primaquatre
jaune
ルノー・プリマカトル
全長15cm
1000台限定
C31001 Volkswagen 1200 marron VW1200 3.10 1000台限定 マロン
C31200 Mercedes 220SE
rouge fonce
メルセデス220SE 3.12 1000台限定
C31540 Renault Viva Grand Sport ルノー・ヴィヴァ・
グラン・スポール
全長10cm
1000台限定
C34000 CAR Renault 120CV ルノー120CV・バス 3.40 1000台限定
C340AF CAR Renault 120CV
air france
ルノー120CV・バス
エール・フランス
1500台限定 青/白
C34700 Renault 4CV police 1956 ルノー4CV
ポリスカー
全長18cm 白/黒
C34900 Renault 4CV police ルノー4CV
ポリスカー
3.49
白/黒
C349UT Renault 4CV
fourgonette PTT
ルノー4CV (PTT)
フランス電電
グレー
C35601 Renault Dauphine
bleu fonce
ルノー・ドーフィーヌ 3.56 1000台限定
C360S1 Renault 1000kgs shell ルノー1000kg バン
「シェル」
3.60S
赤/黄
C360BO Renault 1000kgs
boucherie
ルノー1000kg バン
精肉店
1000台限定 薄灰青
C360T0 Renault 1000kgs
remorque PTT
ルノー1000kg バン
「PTT」トレーラー付
3.60T
グレー
C36100 Renault 1000kgs
ambulance municipale
ルノー1000kg
救急車
3.61 1000台限定
C36101 Renault 1000kgs
ambulance militaire
ルノー1000kg 軍用
救急車
3.61M 1000台限定 オリーブ
C36500 Renault Colorale police ルノー・コロラール
駐車違反牽引車
3.65
C36501 Renault Colorale
assistance
ルノー・コロラール
ルノー・サービス
1000台限定 朱赤
C36700 Renault dauphinoise
fourgonette PTT
ルノー・ドーフィノワ
ーズ・フルゴネットゥ
フランス電電
3.67
グレー
C36900 Renault Dauphinoise
Break gendarmerie
ルノー・ドーフィノワ
ーズ・国家憲兵
3.69 1000台限定
C37300 Renault Faineant fardier
domeynon
ルノー・フェネアン
材木運搬トレーラー
3.73 1500台限定 スカイブルー
C37500 Renault Faineant
racteur remorque pile G2
ルノー・フェネアン
核燃料棒搬送トレ
ーラー
3.75
グレー
C38100 Renault Faineant grue
orange
ルノー・フェネアン
クレーン車
3.81 1000台限定 オレンジ
C39400 Renault 2 tonne EVIAN ルノー2トン・トラック
「エヴィアン」
3.94
白/赤
C45001 Renault 2,5T Betaillere
Pinder
ルノー2.5トン家畜
運搬車「ピンダー・
サーカス」
赤/黄
C46910 Tracteur Somua
remorque SHELL
ソミュア・タンクトレ
ーラー「シェル」
4.69 1000台限定
生産終了
赤/黄
C47105 Tracteur Saviem
remorque BP 
サヴィエム・タンクト
レーラー「BP」
4.71 1000台限定
生産終了
緑/白/
C47401 Saviem SG2 transport
de chevaux
サヴィエムSG2・馬
運搬車
青/黄/白ルーフ
C47500 Tracteur Saviem le
porte cable
サヴィエム・ケーブ
ル運搬トレーラー
4.75 1000台限定 青/黄
C50100 camion Ford cargo et
voiturette de Waterman
「ウォーターマン」宣
伝カー/宣伝バス2
台セット
C50200 Renault 1400kg Savon le
chat
ルノー1400kgバン・
「サヴォン」宣伝カ
黄/黒
C60200 Renault nervasport  ルノー・ネルヴァス
ポール
全長15cm
1500台限定
513233 Renault 4CV rouge ルノー4CV
全長1cm
1500台限定
生産終了

品番は随分と跳んでいますが、基本的にCIJ時代のオリジナル品番と対応しており、CIJ品番の末尾に「00」などを付けて5桁化し、頭に「C」のイニシァルを付しています。

こうしてみるとCIJが作ったモデルは非常にたくさんあり、特に今回のノレブ復刻は、とても全体をカバーするには至らず、乗用車系よりも特車系に力が入っているようてす。
CIJのバリエーションについて私の持っている資料は不完全と思いますが、CIJの作っていない色替バリエーションを、ノレブが作っている可能性があります。例えば私が怪しいと思っているのは、ルノー家畜運搬車のピンダー・サーカス、ルノー・バスのエール・フランス。ただし私の持っている本に載っていない特注品などが存在する可能性があるので、断定はやめておきます。とは言え、金型の活用方法としては、これは当然のことでしょう。

「1000台限定」「1500台限定」などというものもあり、全体として市場の反応(売れ行き)を見ているような感じがあって、生産数はあまり多くないのかもしれません。

そのためか、日本/アメリカ/イギリス/ご本家フランスなどのオークションサイトを見ても出品が発見できず、私の場合シュトゥットガルトのショップから購入しています。
ところがルノー1000kgの「救急車」の替わりにシェル・カラーのバンが送られて来てしまい、苦情を言ったものの替わりの在庫が無かったようで、この救急車については「ねこざかな」さんが入手されていたものを譲っていただきました。(「ねこざかな」さん、ありがとうございました。)

パッケージ同梱の「ミニカタログ」に載っている緊急車系は、「ルノー4CV・ポリスカー」「ルノー・駐車違反牽引車」「ルノー1000kg 救急車」の3点で、これらについてはCIJオリジナルを持っていることから、とりあえず以下ではその3台で比較を試みています。
あとは、「ルノー・ドーフィノワーズ・フランス国家憲兵」について、機会に恵まれれば入手するかもしれません。




ルノー4CV・ポリス (CIJ品番3/49  ノレブ品番C34900)


私の「CIJ趣味」の原点になった、ルノー4CVのポリス。
左がノレブ復刻、右がCIJオリジナル(箱もオリジナルです)。
どうやら、『復刻品が大きい』というのは、本当のようですね。



下がノレブ復刻、上がCIJオリジナル。 いずれも、「ドア切り欠き」のある初期モデルです。
これだとレンズのいたずらで、カメラに近い復刻品の方が、やたらに大きく見えます。
オリジナルではデカール貼りだった「POLICE」のマーキングは、復刻品では印刷になりました。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。 おい、おい、本当に随分大きさが違う…。



右がノレブ復刻、左がCIJオリジナル。
虫ピンを使った、ルーフ上のアンテナの伸縮ギミックは、復刻品でもそのまま再現されています。
大きさだけでなく、グリル上のルノー・エンブレムのモールド加減などが異なっているのが、おわかりいただけるでしょうか。



右がノレブ復刻、左がCIJオリジナル。
リアウインドウの上端の曲線の加減、テールランプ位置などに、かなりの違いがあります。
やはりウワサは本当で、復刻品はCIJ金型から作られたものではないようです。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。
上の復刻品には「MADE IN FRANCE」の刻印がありません。何故だと思われますか??
復刻品は中国製であって、フランス製ではないからです!!


全体に『わざと少し違えている』復刻品


このルノー4CVに関しては、パッケージもオリジナルのものを持っているので、比較してみましょう。
下がノレブ復刻、上がCIJオリジナル。

CIJオリジナルのミニカーを持っているコレクター用に複製されたリプロ箱と違って、敢えて車名タイトルのレイアウトが違えてあることがわかります。イラストレーションも良く似せてはいますが、新たに書き起こしたものと思えます。仮に金型が残っていたとしていも、パーケッジの版下(製版用の原稿)や原画が残っていることはさらに考えにくいと思われるからです。印刷用の版下は長期保存を考慮していないため、短期間で劣化する、といったこともあります。写真植字時代の版下は、数年でペーパーセメント(写植を台紙に固定している接着剤)が劣化して剥落することがありました。



パッケージの反対側。 下がノレブ復刻、上がCIJオリジナル。
CIJでは、ノーマル・セダンのモデルとイラストレーションを共用しており、復刻品はポリス専用箱のため、こういう現象が起きます。



箱の側面。 下がノレブ復刻、上がCIJオリジナル。
やはり無理に『似せよう』としていないですね。

実は印刷技術は、この数十年の間に、活版(活字)→オフセット(写真植字)→オフセット(デジタルによる原稿作成)という大きな変化を遂げました。したがってタイプフェイス(書体)の面で、古い時代のものをそのものスバリ再現できるフォントを特定することは困難で、仮に似せようとしても微妙に違ってしまうことは避けられないのですね。リプロ箱のように似せようとすれば、オリジナルを反射原稿にして複製することになるのです。ノレブは今回この手法を採っていないわけです



側面反対側。 下がノレブ復刻、上がCIJオリジナル。
復刻品では、キチンと「ノレブ」のエンドースメント(出所表示)が付きます。したがって箱に入って売られている限りは、オリジナルとの混同は起きないことになります。ただしミニカー本体には「NOREV」の表記は一切無いので、あと20年ぐらいしてから、基本的知識の希薄なアンティークショップなどの手に渡った時に、オリジナルとの混乱は起きるかもしれないですね。

売り手が複製品であることに気づかずに、「1950年代のCIJである」などと言って売ってしまうことがあり得るので、特にネット上での売買では気をつけてください。

独自サイトのURLは「CIJ-europarc」になっていますが、この黄箱はウーロパルク化以前のものです。
何故、わざわざ「ウーロパルク」を標榜しているのでしょうか。



箱の「妻」面。左がノレブ復刻、右がCIJオリジナル。
やはり復刻品では「MADE IN FRANCE」の表示がありません。
「CIJ」のブランドロゴタイプのプロポーションが微妙に違っています。



箱の「妻」面の反対側。左がノレブ復刻、右がCIJオリジナル。
使用時期の異なっているブランド・シンボルを表示していることがわかります。


ルノー・コロラール駐車違反牽引車 (CIJ品番3/65  ノレブ品番C36500)


日本に1962年頃に輸入されながら、現在では相当の高値になっている、ルノー・コロラールの「駐車違反牽引車」。車両/トレーラー/箱/が揃っているもののオリジナルはかなり稀少で、復刻されることの意義の大きい商品と言えるでしょう。今回の復刻品の中には、ルノー・フェネアンの「核燃料棒トレーラー」をはじめとして、こうした「長尺物」の存在が目を引きます。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。
残念ながら、私の持っているオリジナルでは、箱も、トレーラー部分も失われています。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。
どうやらこのモデルでは、「4CV」ほどに顕著な大きさの違いは無いようですね。



右がノレブ復刻、左がCIJオリジナル。
グリル周りの処理、ヘッドランプの大きさ、フロントウインドウのプロポーション(縦横比や下部のアールの具合)など、やはり金型は違うようです。
CIJオリジナルを原型として新しい金型を起こしている、ということですらなく、オリジナルを見ながら新しい原型を起こしている、と思えるのですが、いかがでしょう。



右がノレブ復刻、左がCIJオリジナル。
バンパー形状、荷台ゲートの蝶番の処理など、完全に違う金型ですね。
オリジナルでティンプレート製になっているキャンバストップ(幌)の部分を、プラスチックなどに置き換えずに、ちゃんとティンプレートで再現しているところなどに、このシリーズの真面目な姿勢を感じます。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。
ブランドシンボル形状、車名表記の有無など、全く違っています。オリジナルでは時期によって異なったブランドシンボルを使っており、復刻品では全てに共通のものを表示しているために起きた現象でしょう。
オリジナル品の牽引フックは、誰かが後年になってハンダ付けして修理したものです。



復刻品は梱包材としてプラ製のブリスターで固定されています。こういうところを見ると、現代の製品であることが思い出されますね。



CIJオリジナルの車両に、復刻品のトレーラーを引かせたところ。
オリジナルのトレーラーだけを捜索・入手することは半ば諦めていたので、復刻品で十分!
さらにCIJオリジナルの救急車を載せると、これなら全然問題なしです。
トレーラー付き完品の入手にお金を使うことには二の足を踏んでいたので、私としては思いがけない「復刻効果」というところでしょうか。


ルノー・1000kg 救急車 (CIJ品番3/61  ノレブ品番C36100)


ルノー1000kgの救急車(アンビュランス・ミュニシパル)。
左がノレブ復刻、右がCIJオリジナル。 ただしCIJモデルが載っているのはリプロ箱で、オリジナルではありません(オリジナルから複写されているので、デザインはオリジナルを再現しています)。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。
ううん、このモデルに限っては、CIJ金型と言われてもわからないぐらい、良く似ていますね。



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。 大きさ的にもほぼ差はありません。



右がノレブ復刻、左がCIJオリジナル。 
グリル上のルノー・エンブレムのニュアンス、バンパーの掘りの深さ、ウインド上の赤十字灯のモールドなどが異なっています。やはり別の原型・金型でしょう。



右がノレブ復刻、左がCIJオリジナル。 
リアの屋根上灯は、CIJでは救急車では無く、ポリスには有/無の両方がある、といった現象が起きていますが、ノレブでは、側面に窓のあるタイプでは「屋根上灯有り」の方に統一して復刻したようです。
(側面窓の塞がれているカミヨネット(バン)には屋根上灯がありません。)



上がノレブ復刻、下がCIJオリジナル。 
フロントバンパーの厚みの加減が、随分と違うことがわかります。



下がノレブ復刻、上がCIJから複写したリプロ箱。
反対側の救急車イラスト面は共通ですが、こちらの面は明確な違いがあります。
ノレブ版では、「ブーシュリー」(精肉店配達バン/C360BO)とパッケージを共用しているのでしょう。



この救急車については、1000台限定の生産で、シリアルナンバー入りの「限定証明書」が付きます。下は、復刻版各製品のパッケージに同梱されたミニカタログです。


ルノー・ドーフィノワーズ・国家憲兵 (CIJ品番3.69  ノレブ品番C3690)


「機会に恵まれれば入手するかもしれない」と書いた「ルノー・ドーフィノワーズ・フランス国家憲兵」ですが、当サイトと相互リンクさせていただいている「ポポラーレ」さんに入荷したことをメルマガで知り、早速1台確保しました。このモデルはこのページ冒頭のリスト中にあるように「1000台限定」で、海外のオークションサイトでも見たことがありませんでした。これを国内で確保できたのは、ラッキーだったと言うべきでしょう。

「ポポラーレ」さんはサイトをリニューアルされたようですので、リンク先も新URLに改めさせていただきます。「国家憲兵」の他にも、ルノー4CV・PTT/VW1200/ルノー・ドーフィーヌ/ルノー1000kgバンの「精肉店」/ルノー・コロラール運搬トレーラー(ルノーサービス)などが入荷しています。ルノーバスの「エール・フランス」が早々に「売り切れ」になっているのが興味深いところです。(2008年7月12日現在)




まず、こちらはCIJオリジナル。ただし箱は複製リプロ箱です。
年式は1956年、発売は1957年、スケール1/44とのこと。(Les jouets en zamac CIJ/J.R.D.automobiles-utilitaires, Thierry Redempt-Pierre Ferrer, Lescarnets du collectionneur DRIVERS,p204)
屋根上のアンテナにはサビが出ており、ボディ側面も塗料が剥げた部分のダイキャストの酸化が始まっています。



続いてノレブ復刻品。なんだか随分とスッキリした仕上がりに見えます。
CIJオリジナルのホイルにも赤とグレーの2種(いずれもプラ)があるようで、復刻品はこのうちのグレーホイルを再現したということでしょう。



上がCIJオリジナル、下がノレプ復刻。
側面のモールドのタッチ、リア・フェンダーの「ふくらみ」のニュアンスなどで、やはり別の金型であることが知れます。
ただしこのモデル、CIJオリジナルでもまるでティンをプレスしたような極めて肉薄の印象のあるボディで、復刻品もこの点を良く再現していると言えるでしょう。
ミニカー的には赤ホイルの方が映えたかもしれないですね。



左がCIJオリジナル、右がノレブ復刻。
復刻の方がラジエータグリルのパターンが繊細、ルノー・エンブレムの彫刻もハッキリしている、ヘッドランプが微妙に小さい、といった違いが認められます。
銀塗装のマスキングなどを含めて、復刻品はマジメに作り過ぎ、オリジナルの「ラフさ」がなくなってしまったのかもしれないですね。実は「ラフさ」をマネするのは、「真面目さ」をマネするよりもむずかしいのです。



左がCIJオリジナル、右がノレブ復刻。
ジャンダルムリー所属車の唯一の証であるリアのトリコロールも、良く再現されています。(CIJではデカール/ノレプ復刻ではプリント)
ドア・ハンドルや蝶番のニュアンスが少し違いますが、もしかして復刻原型製作がだんだん上手になって来ているのかも。



下がCIJオリジナル、上がノレブ復刻。
このアングルでは、大きさ・形状ともに、ほとんど違いがありません。
ただし復刻品は、金型表面・塗装ともに綺麗に仕上がり過ぎていて、ディンキーなどもそうですが、この時代のミニカー特有のちょっとゴツゴツした感じがなくなってしまったようです。



上がCIJオリジナル、下がノレブ復刻。
今後、セカンドハンド取り扱い店などで迷った時には、裏板に「MADE IN FRANCE の刻印があるものはCIJオリジナル」 「復刻品にはMADE IN FRANCE の刻印が無い」と覚えておいてください。



上がCIJ用リプロ箱、下がノレブ復刻。
後席に窓のあるものを「ブレク」(break)と呼び、CIJはノーマル乗用車としてライトブルーとブルー(レア)、ダークブルーの国家憲兵(ジャンダルムリー)を作りました。「ブレク」の語源は「大型無蓋4輪馬車」、転じて「ステーションワゴン」です。

ノレブは「ブレク」に関しては国家憲兵しか作っておらず、したがって箱に「ブレク・ジャンダルムリー」という特定表記をし、背景のイラストレーションにも「ジャンダルムリー・ナシヨナル」(国家憲兵)という看板を描いているわけです。



後席の窓が塞がれて荷台となったバン・タイプのボディを「フルゴネットゥ」と言い、CIJはグレーのノーマル(品番3.67)/グレーのPTT(フランス電電・3.68)/ブルーグリーンのフランス郵便(POSTE・3.68)/赤のベルギー郵便(poste belges・3.68PB)を作りました。
「フルゴン」が有蓋貨車・有蓋トラック、「フルゴネットゥ」はその縮小名詞で、「小型有蓋トラック」という感じです。

このページ冒頭のリスト中で「PTT」を「フランス郵政」としていましたが、「フランス郵便」とまぎらわしいので、「フランス電電」に訂正しました。
「フランス郵便(POSTE)」と「フランス電電(PTT)」の違いは、「郵便」と「電信電話」の違い、統括していた役所(PTT・フランス郵政)は同じ、と思ってください。日本のかつての郵政省と同じですね。

ノレブはこのうちのグレーのPTTだけを復刻していて、箱に「フルゴネットゥ PTT」という特定をしています。CIJ/ノレブともに「ブレク」と「フルゴネットゥ」の箱のイラストレーションを共用しています。



右がCIJ用リプロ箱、左がノレブ復刻。
CIJオリジナルには「RENAULT」の大きな車名表示はありません。



結論として、ノレブ復刻品は中国製原型再製作による別金型か

こうして見て来ると、少なくとも私の入手した4点については、CIJ金型から再生産されたものではなく、新しい原型・金型が起こされているように思います。見ていない製品についての断定は出来ませんが、おそらくこれはノレブの復刻品シリーズの全体に言えることなのではないでしょうか。

既存の金型を利用して復刻をするのと、敢えて原型制作・金型製作をしてまで復刻をするのとでは、全くコスト感が違うと思われます。ノレブが、どうして、いま、新しい金型をわざわざ起こしてまで、CIJやスポットオンの復刻製品を売ろうとしているのでしょうか。この点を少し考えてみましょう。

ノレブでは、復刻品シリーズの専用サイトを立ち上げたようですが、Webカタログ的な色彩が強く、開発の意図とか「思い」のようなものは、書き込まれていないようなのですね。このあたりはフランス人はなかなか「シャイ」で、あまり多くを語りたがらないのかもしれません。
http://www.cij-europarc.com

ノレブは、1946年にヴェロン兄弟によって創業。ブランドネームである「NOREV」は、ファミリーネームである「VERON」を逆から綴ったものです。これを「アナグラム」(l'anagramme de leur nom de famille)と言います。「LLEDO」が「ODELL」のアナグラムになっているのと同じですね。
第1号製品は、印刷されたシートメタル(ティンプレート)で作られたガレージのオモチャで、中にプラスチックの自動車が付属しました。初期の重要な製品は、子供用のオモチャの腕時計だったそうです。
1953年に、1/43と1/87で、最初の自動車のスケール・ミニチュアをプラスチックで製作。1960年代に日本に輸入され始めた頃には、ノレブのミニカーと言えばプラスチック製でした。
2006年に、60周年を迎えました。(http://www2.norev.com/index.php?content=histoire&lang=fr)

もともとCIJと同じ60年代を生きて来たミニカー・メーカーなわけですが、最近の成長は、少しノスタルジックな時代のフランス車を、中国製の細かいディテールを持ったモデルで再現したことによってもたらされたと言って良いのではないかと思います。
「1/43でここまで再現できる」「古いトイ・カーしかなかった時代のクルマを、新しい技術で模型的に再現する」というところにコンセプトがあったのではないでしょうか。雑誌付きミニカーをフランス国内や日本でも展開し、「こういう世界があったのか」というところを、主として「CIJ」やフランス・ディンキーなどの時代のミニカーに対して同時代体験を持っていない世代に、アピールして来たのではないかと思います。

ただ、ミニカーの売られ方・買われ方を見ていると、古い絶版車に向かう層と、新しいハイ・ディテールな模型的モデルカーに向かう層とは、二極化しているように思われるのですね。
ノレブのような、いわば「メジャー」なメーカーが、古い製品の復刻品を市場に供給することで、新しい模型的ミニカーのファン層にも、古い製品の味わいを知ってもらえば良いと思います。
また逆に普段絶版品ばかり追い掛け回している層にも、新しい製品を買ってもらうきっかけづくりにもなるでしょう。総じて、「二極化」しつつあるふたつのグループの橋渡しになってくれればいいわけです。
ノレブの意図は、そんなあたりにあるのではないか、という気がします。
ディッキーがピコロをはじめとする古いシュコー製品を復刻していることなどにも刺激を受けているのかもしれません。

新しく原型を起こすと言っても、全く新しいモデルを取材・企画開発するよりは、はるかに簡単に原型を起こすことができるはずですし、原型製作の段階から中国に依頼する方式が、低コストでの復刻を可能にしているのでしょう。

「CIJ」のオリジナルは、絶版車マーケットではかなり高価になっていますし、状態の良いものは少ないですから、この時代のミニカーに関心のある方に、簡便かつ安価に、当時のモデルの雰囲気を味わってもらえる、という利点はあるわけです。
しかし、どうもその割にはなかなか在庫も無く、かつ価格も馬鹿にならないものになっているようなので、日本国内でももっと簡単に、安価に入手できる方向への改善を望みたいものです。
スポット・オンのモデルでは、ぜひアイスクリーム販売車の復刻を期待したいと思っています。



シムカ・マルリー救急車 (キラル復刻品)


ハナシのついでのオマケ画像ですが、こちらは「キラル」の復刻品。



ノレブの製品ではなく、製造元は「ルイ・スルベール SA」というフランスの会社(SA(エス・ア)は「Societe Anonyme」(ソシエテ・アノニム)の略で、株式会社)。
ミニカーの顔は「トヨペット・クラウン」にそっくりで、びっくり。



このモデルでは、復刻者はフランスの会社なので、「MADE IN FRANCE」の刻印は顕在。
オリジナルを持っていないので比較はできませんが、こちらはキラルの旧金型からの復刻なのではないでしょうか?

いずれにしても、復刻品を箱付きオリジナルだと誤解して、高いお金を払わないように注意するべき時代が到来したようです。



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