懐旧のカルカッタ

"I am an Indian, and India is part of me"





 インド製モデルに見る「古き良き60年代」


「アルゼンチン」と同じように、複数のミニカー・メーカーが個性的なモデルを残したのが、「インド」ではないでしょうか。古き良き時代のディンキーやコーギーのモデルがユニークな化粧直しをして、私の大好きなレトロ系のパトカーや救急車やタクシーになっている、それがインド製モデルの魅力です。それも本国版ではノーマルの乗用車しか作られなかった金型が、救急車やタクシーになっていることが多いのですね。

製造コストと多くの工程をかけて複雑な細部を表現し、「高い価格でも受け入れてもらえる大人向けのモデルを集めるのが大人のコレクション」という考え方が、ダイキャストミニカーの世界に台頭して久しいようですが、やっぱり私には、どうしてもそうは思えません。これは、ウエスタン・モデルズなどのホワイトメタル・モデル/ダン・ハウゼン/そしてPMA(ポールズ・モデル・アート)に至る、あくまでひとつの流れにすぎないでしょう。

ダイキャスト製ミニカー初期の量産品について、「低価格に押さえるために、ディテールの省略をせざるを得なかった子供向けの玩具」という見方があるようですが、それは違うと私は思います。
アルゼンチンのアロルド・ブービー・マルアーが、創業したての頃にダイキャスト・ミニカー製品のサンプルを持ってブエノス・アイレスの玩具店を営業に回ったものの、「彼らがそれまで扱っていたティンプレート(ブリキ)トイに対してダイキャスト製品が大変に高価であったために、取り扱ってもらえなかった」という話をご紹介しました。日本にコーギーやディンキーが入って来た頃のことを思い出しても、それは小さな車体に対して「宝石のように」高価なものでした。実際、コーギーのベントレーのヘッドライトにはキラキラ光るカットガラスが嵌め込まれていて驚いたものです。

初期のコーギーやディンキーは、シートもウインドガラスさえ入っておらず、シートやサスペンションが付いていることが初期「ブービー」の自慢でもありました。それらのモデルは「コストを抑えるために手を抜いた」のではなくて、「その時代・その国での、せいいっぱいの技術が詰め込まれた」表現だったのです。レズニー・マッチボックスの成功を見た各社によって、価格を抑えた小スケール・モデルが「子供向け」に隆盛したのはそれよりずっと後のことです。

かつての1/43サイズのミニカーは、子供がなかなか自分のお小遣いの範囲で買えるものではなく、やっと買ったミニカーも十分に遊ばれて玩具としての使命をまっとうし、保存されませんでした。しかるに現存数が少ないモデルを集めることが「大人の趣味」として定着してきたわけで、「製造工程数の多いモデルが大人のコレクション対象だ」という議論は、あまりにこの50〜60年間のミニカー興亡の経緯を単純化しすぎているように思えます。これからご紹介するインドの「ニッキー」製モデルなどは、箱付きで状態の良いものですと、英国の会場オークションで120ポンドぐらいで取引されているようです。これらは、製造終了後ある程度の年数が経ってからの評価ですから、今後の評価が決定的に崩壊する可能性は少ないと見て良いのではないでしょうか。

最近私は、逆に「製造工程数の少ない」、シンプルにして素朴・稚拙なモデルを好むようになりました。インド製ミニカーの仕上げは、現在の模型的モデルカーのコレクターから見れば収集対象にさえならないようなものでしょうが、それが作られた当時のインド社会の中では、十分に高価・高級なものだったことは想像に難くありません。おそらくこれらのダイキャスト・ミニカーを手にすることのできたインドの子供は、あまり多くはないことでしょう。

「アルゼンチン」のミニカーについては、ブエノス・アイレスおもちゃ博物館の活躍のおかげで意外に情報に恵まれたのですが、インド製ミニカーについての情報は残念ながら極めて希薄で、それも方々に少しずつの記述として散逸しています。インド亜大陸の「神秘」のベールを剥がすのは、ミニカーの分野にあってもことのほかむずかしそうです。

「模型的な精密さ」の追求とは、ある意味で最も遠いところにある、インドの古いミニカーの魅力をご覧いただければ幸いです。 (2010/10/30)


 The diecasts from Nicky, Milton and Maxwell in India

I have several diecasts from Indian firms. They had come from Nicky, Milton and Maxwell.
They look like models from Dinky and Corgi. Where did the dies come from? And When were theyproduced in India? There are very little informations about that and even if I find the images oftheir catalogue on web pages, the publishing year is not printed on them...

I am expecting that the Indian firms had purchased some old and original dies from Dinky andCorgi, but some models were inspired from British diecasts without original dies.

At the present days, India appeared on the main stage of the world economy and we can findthat Dr. Neela Rasgotra was working in County General Hospital in Chicago on TV show 'ER'
But the old diecasts are still hided by a mysterious veil of Indian subcontinent.



BIBLIOGRAPHY
-Encyclopedia of Small-Scale Diecast Motor Vehicle Manufactures by Kimmo Sahakangas, Dave
 Weber and Mark Foster, Iconografix WI, 2006
-Dinky Toys Revised 4th Esition With Price Guide by Dr. Edward Force, Schiffer Publishing Ltd,PA 1999
-Corgi Toys Revised , 3rd Edition With Updated Value Guide & Consolidated Mettoy EraVariations List by Dr. Edward Force, Revised by Bill Manzke, Schiffer Publishing Ltd, PA 1997

-Dinky Toys Jeeps by Jarek Skonieczny and Derek Redmond
http://www.film.queensu.ca/CJ3B/Toys/DinkyToys.html
-Dinky Toys
http://www.ft.com/cms/s/2/d977a0ac-7351-11dc-abf0-0000779fd2ac.html
-Dinky Toys
http://dinkytoys.blogsome.com/
-Diecast Oddities presented by The Bickford Diecast Research Center
http://www.kbickford.com/AlphaM.html
http://routemasterbus.home.att.net/milton.htm
-Maxwell Mini Auto Toys from India by Kimmo Sahakangas
http://www.breithaupts.com/totc293.htm
-Model Collector, Britain's biggest selling die-cast magazine
http://www.modelcollector.com/content/a_z/m.htm
-Nicky Toys
http://www.vectis.co.uk/auccat.php?auction_id=108&cat=&start=1880
-Nicky (Dinky casting) Toys 120 Jaguar 'E' Type.
http://www.qualitydiecasttoys.com/viewitem.php?id=6864
-Dinky made in Hong Kong
http://www.tbirduk.com/Dinky_HK_42.asp
-Dinky made in Hong Kong
http://www.tbirduk.com/Dinky_HK_60.asp
-Dinky made in South Africa
http://www.tbirduk.com/Dinky_sa.asp

*I am not approved to make related links to these websites about diecasts from India.
 My special thanks goes to these websites for bringing me a lot of informations and inspirations.


 「ニッキー・トイズ」(Nicky Toys)─ディンキー金型を使って生産された標準スケールモデル


アルゼンチンやブラジルの時もそうでしたが、「アルゼンチン」「ブラジル」「インド」のミニカーなどと聞くと、ただちにメジャーブランドの不法コピーモデルを連想される方も多いことでしょう。
これは金型の交流などの経緯を調べることなく、「カタチの似たもの=コピー」と簡単に決め付けてしまうような風潮があることも影響をしているものと思います。

確かにそれらの国には、そういう「模倣」モデルもあることは事実なのですが、ミニカーやプラキットの黎明期にコピーモデルが生まれたのは、別にこれらの国に限ったことではありません。何を隠そう日本のメーカーも、おしなべて海外製品を「見習う」ことからスタートしたのはご存知の通りです。

金型がインドに渡った経緯については一部判然としない点もあるものの、実はインド製のモデルもまた、アルゼンチンやブラジルと同様にオリジナルの金型を使って鋳造されたものも多いのです。



老舗ブランドのディンキー(メカノ・リミテッド)は、1972年にはフランスでの製造を中止。スペインのピレンの工場では、1970年代の末までフランス・ディンキーの製品を作っており、1981年まではソリドがこれを引き継ぐ努力をしていました。イギリス・ディンキーは1979年末まで会社存続のための格闘を続け、一部の生産をイタリアのポリスティルの工場や、香港・ユニバーサルの工場で行っていたとされます。しかし結局経営を劇的に好転させることはできず、リバプールのディンキー工場(Binns Roadfactory)は1979年11月に閉鎖されました。

1970年代末に香港で生産されていたこれらの金型の一部が、ディンキーの破綻後にカルカッタの「クマール・アンド・カンパニー」(S. Kumar & Co.)に売却されたとされます。「クマール」(またはクマー)は、1970年代のはじめから、「ニッキー・トイズ」(Nicky Toys)のブランド名で玩具生産をしていました。

「クマール」は、香港経由で入手したディンキー金型を使って完成させたモデルのサンプルを送りましたが(When Dinky went broke, the mould was sold to Kumar, a firm in India, and they came toEngland with their samples/Dinky Toys/http://www.ft.com/cms/s/2/d977a0ac-7351-11dc-abf0-0000779fd2ac.html)、そのクォリティはディンキー製品に及ばなかったために、それらが「Dinky」ブランドで製造・販売されることを拒否され、やむなくそれらは「Nicky」ブランドで売られることになりました。

この「拒否」をした主体が誰か、という点は実は判然としません。「サンプルを英国に送った」という表現があるために、最末期のメカノ・ディンキーとも読めますし、その時点で「Dynky」の商標権を獲得していた別の事業主体、というようにも読めます。1979年〜1982年頃には一時的に「Dinky」のブランドを英・エアフィックス(プラキットの老舗)が持っており、ヨーロッパでは「Dinky」を、アメリカでは「Kidco」のブランドを使って香港工場製の小スケール・ミニカーを売っていた時期もあるようです。

1987年に、この時点で「Dinky」の商標権を持っていた「ケナー・パーカー」は「Dinky」のブランド(商標権)を最終的に香港のユニバーサルに売却。イタリアのポリスティル工場に残っていた古いディンキー金型もユニバーサルに渡ったようです。さらに一部の金型は南アメリカにも渡ったとされます。

「ケナー・パーカー」はアメリカの玩具会社で、1985年頃までは、ジェネラル・ミルズ傘下の2つの事業体である「パーカー・ブラザーズ」と「ケナー・プロダクツ」に分かれていました。「ケナー・プロダクツ」は1970〜1980年代に「ブライス」などの人形玩具を製造していました。「ケナー・パーカー」は同じ1987年に「トンカ」を取得。ただし「トンカ」とケナーの生産ラインは、1991年にさらに「ハズブロー」に売却されました。

こうして書くと、一応まとまった経緯のように見えますが、実は3つの資料の情報を合成したものです。ひとつは、1999年刊のドクター・エドワード・フォースによる「ディンキー」の解説書(Dinky ToysRevised 4th Edition With Price Guide by Dr. Edward Force, Schiffer Publishing Ltd, PA 1999)、あとのふたつは「ディンキー」について記述したコレクターズ・サイトで、この中に「ニッキー」にふれている箇所があります

-Dinky Toys Jeeps by Jarek Skonieczny and Derek Redmond
http://www.film.queensu.ca/CJ3B/Toys/DinkyToys.html
-Dinky Toys
http://www.ft.com/cms/s/2/d977a0ac-7351-11dc-abf0-0000779fd2ac.html

1980年の時点で、ユニバーサルはディンキー金型をいったん「ニッキー」に売却してしまっていて、その後「Dinky」の商標権とともに一部の金型を取得しているようです。1980年というと、ユニバーサルは未だ「マッチボックス」ブランドも取得していないわけで(取得は1982年9月24日)、ディンキーのブランドや金型の活用戦略が芽生えるのは、もう少し後のことのだったのでしょう。



上記の流れでは、「ニッキー」がディンキーの金型を入手したのは、1979年のディンキーの破綻後ということになりますが、別サイト(Model Collector, Britain's biggest selling die-cast magazine
http://www.modelcollector.com/content/a_z/m.htm)では、ニッキーを製造したのはクマー(S.Kumar and Co.)グループの一員である「アタムコ」(Atamco Private Ltd of Calcutta)社で、1968年からディンキーの、生産が終了して必要なくなった金型を購入した、としています。(Atamco Private Ltdof Calcutta, part of S. Kumar and Co., from 1968 purchased from Dinky Toys the dies of certainthen obsolete items. It marketed the toys so produced as Nicky Toys.)

こちらが事実とすれば、ニッキーにディンキー金型が渡った年次が10年以上前倒しになることになります。ニッキー製品の製造年次がわかれば簡単に特定できそうなことですが、これがなかなか困難なのです。

『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』 p96

『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』 p88


日本国内の資料では、中島登著・『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』(二見書房・1980年)に面白い記述があります。「インド・ディンキー」として2台のモデルが収録されており、ひとつはVW1500のポリスカーで1963年の製造・日本未輸入、もう1台はメルセデス220のタクシーで、1967年の製造・同じく日本未輸入、としています。

この場合、「インド・ディンキー」は、「ニッキー」のことを言っていると考えられます。私は箱付きのニッキー製モデルを入手していませんが、「ニッキー」のパッケージはブランドが「Nicky」になっている以外は「Dinky」と大変に良く似たもので、「フランス・ディンキー」や「香港ディンキー」と並んで「インド・ディンキー」と称されることがありました。


『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』 p208


『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』 p211


日本にはメカノ・ディンキーの正規品が輸入されていましたから「インド・ディンキー」の「日本未輸入」は当然としても、問題となるのは「1963年」「1967年」という製造年次です。この製造年次は、ニッキーによるディンキー金型でのミニカー製造が、「1979年のメカノ・ディンキーの破綻後」であるとする説とは明らかに矛盾します。中島登氏の著書の初版が1980年3月であることからしても、もっと以前に生産・入手されていたものと思われます。「1963年」「1967年」というのは少々古すぎるとしても、少なくとも1968年からディンキーの廃盤金型を使ってニッキーがミニカー製造をしていた、とする「ModelCollector」の記述は正しいのではないでしょうか。

もうひとつ、メカノ・ディンキーの破綻以前から「ニッキー」がダイキャスト生産をしていた有力な証拠があります。「ニッキー」は航空機モデルも作っており、#708に「ヴィッカース・ヴァイカウント800・BEA」、#999に「デ・ハビラントDH106・コメット・BOAC」があるのです。BEA(英国欧州航空・British EuropeanAirways)とBOAC(英国海外航空・British Overseas Airways Corporation) は、1974年に経営統合して現在の英国航空(British Airways)になりますから、これらのモデルが1974年以前に作られたことは明らかでしょう。金型自体は古い時代のものを使うことがあるとしても、合併してなくなった航空会社ブランドのデカールをわざわざ貼るとは考えにくいからです。

1968年の時点で既に製造サンプルを英国に送ったものの、「ディンキー」ブランドを使用する「お墨付き」はもらえなかったために「Dinky」ではなく「Nicky」のブランドを使用、その後ディンキーの破綻後に香港経由でさらに追加の金型を入手した、というところが真実なのではないでしょうか。

「Model Collector」のサイトが記述している「アタムコ」社(Atamco Private Ltd. of Calcutta)の名前も、一部のニッキー製品のパッケージに、白箱に印刷またはラベル貼りという形で見出すことができます。当初は「クマー」(S. Kumar and Co.)が製造者、「アタムコ」がディストリビューター(販売会社)かと思いましたが、「Manufactured by Atamco」(製造:アタムコ)というラベルの貼られたものもあり、これは販売会社や代理店ではないことを示しているので、「クマー・グループの一員であるアタムコ」という「Model Collector」の記述が最も正確と思われるのです。

いずれにしても重要なのは、「ニッキー」製品については「無断コピー」モデルではなく、ディンキーの金型の正規譲渡を受けて作られていると考えられることです。鋳造/塗装の品質が伴っていれば、「インド・ディンキー」の名称が正式にディンキーによって与えられていたはずなのです。


※余談ですが、1966年に南アフリカのディンキー・ブランチが、フランス工場のパーツ・ストックを輸入し、関税節減の目的もあって南アフリカ国内での組み立てをしたそうです。ブラジルやアルゼンチンでその後に良く見られたパターンです。「#555」のフォード・サンダーバードで5色が確認されており、会場オークションで1100ポンド(1540ドル・約15万円)の値のついたものがあった由。「South AfricanFrench Dinky」(南アフリカ・フランス・ディンキー??)と呼ばれているようで、白と濃赤のみがフランス工場製で、他の色は南アフリカ製だとのこと。


 「ニッキー」の製品リスト

ドクター・エドワード・フォースによる「ディンキー」の解説本(Dinky Toys Revised 4th Edition WithPrice Guide)は、p203に「ニッキー」のリストを掲げています。「ニッキー」がディンキー金型を使って生産されたモデルとして、コレクター間で認められている状況がうかがえます。

フォース博士にして品番もカラーも不明(持っていないどころか、写真すら見たことがない!)のものがあり、探すのはなかなか手ごわいモデルだと言えるでしょう。0番台/100番台/200番台は乗用車系のモデルですが、400番・600番台はディンキーの得意とした軍用車、700番台は飛行機、900番台でバスやトラックになり、最後の999番はBOACの旅客機になっています。国や民族・宗教が変わっても、男の子は軍用車や飛行機で遊ぶということなのでしょう。


Encyclopedia of Small-Scale Diecast Motor Vehicle Manufactures by Kimmo Sahakangas,
Dave Weber and Mark Foster, Iconografix WI, 2006, p136


Encyclopedia of Small-Scale Diecast Motor Vehicle Manufactures by Kimmo Sahakangas,
Dave Weber and Mark Foster, Iconografix WI, 2006, p203

品番は、ディンキーのものと概ね一致していますが、0番台(2桁品番)のものは異なっており、これらはディンキー金型をポリスやタクシーに転用したり、ベントレーをロールス・ロイスに化けさせるなど、もとのディンキー品番を持たないモデルたちのようです。

フォース博士のリストにもどうやら少なからず誤りがあるようで、以下は会場オークションの出品カタログ(英国vectis)で確認できた品番やカラー・バリエーションをフォローしたものです。したがって、カラーバリエーションはこれらが全てではありません。英国では、ディンキー・コレクターによって収集された状況がうかがえ、それなりに「ニッキー」製品が絶版市場に出てくる余地があるようです。

会場オークションの説明でも、「ペイルブルー」「パウダブルー」/「ディープレッド」「バーガンディー」など、その都度様々な色名表現を使っているので、実は同じカラーではないか、と思われるものは割愛しました。ロールス・ロイス/ベントレー/ジャガーやスポーツカーなどは、同じ金型でずいぶんたくさんのカラー違いを作ったようです。また一部のモデルは「ニッキー」製でありながら、「Dinky」のモールドのある裏板をそのまま付けたモデルが存在するようです。

さらに箱なしのモデルで、着脱式のトップが失われているような個体では、元がオープントップだったのか、ハードトップだったのかわからなくなっているようなものもあります。フォース博士のリストでは、オープントップ/ハードトップに違う品番を充てているものもありますが、会場オークションの箱付き出品の写真で見ると同一品番のようなので(137番のプリマス・フューリー)、これも訂正しました。
しかし以下のリストにも間違いはあるかもしれません。

正直、ニッキーにこれほどたくさんのモデルがあるとは驚きましたが、#51のメルセデス・タクシーがいい感じなので、機会があれば探してみたいと思っています。

品番
製品名
Dinky品番
カラーバリエーション
050 VW1500 Police Car 144 青・白/赤に白トップ
050 Jaguar 3.4 Police Car 195/269 メタ赤/赤に白トップ
051 Mercedes-Benz 220SE Police Car 186 カラー不明
051 Mercedes-Benz 220SE Taxi 186 黒に黄色ルーフ
054 Standard Herald Mk.U 134 メタ緑/メタ赤/クリーム
094 Rolls Royce Opentop Convertible 194 メタ緑/メタ青/メタ赤
113 MGB Sports Car 113 メタ赤/メタ銀/メタ緑/ピンク/黄/
ダークブルー/ブルー/赤
120 Jaguar E-Type 120 メタ赤/メタ銀/ブルー/グリーン
134 Triunmph Vitesse 134 メタリックグリーン/ダークブルー/
グリーン
137 Plymouth Fury Hardtop 137/115 赤に黒トップ/ターコイズに黒トップ
137 Plymouth Fury Convertible
(オープントップ)
137/115 ブライトグリーン/赤/メタ銀/黄/
ブルー/バーガンディー/メタ赤
142 Jaguar Mark ] Saloon 142 メタ銀/メタ緑/メタ赤/メタ青/赤/
クリーム/グリーン/パウダーブルー
144 Voksawagen 1500 144 メタ赤/メタ青/グレイッシュグリーン/パウダーブルー
146 Daimler V8 146 カラー不明
170 Lincoln Continental 170 銀に黒トップ/メタ赤に白トップ/ライトブルーに赤トップ/クリームに黒トップ
186 Mercedes-Benz 220SE 186 メタ青/メタ赤/メタ銀/赤/グレー/
ライトメタグリーン/パウダーブルー/
194 Bentley S 2 Convertible(Cooupe) 194 メタ青/メタ銀/メタ緑/メタ赤/ライトブロンズ/赤/黄
195 Jaguar 3.4 Mk.USaloon 195 メタ銀/メタ青/メタ赤/メタ銀/メタ緑/パウダーブルー/赤
238 Jaguar D-Type 238 メタ青/メタ緑/メタ赤/メタ銀/メタ黄/ターコイズ/グリーン
239 Vanwall Racing Car 239 メタ赤/メタ濃赤/メタ銀/メタライラック/ブロンズ/ライトグレイ/ダークグレイ/ライムグリーン/オレンジ
295 Standard Minibus 295 メタ青/メタ銀/メタ赤/グレー
295 Standard Ambulance 295
405 Universal Jeep(民間タイプ) 405 赤/青
405 Universal Jeep(軍用タイプ) 405 グリーン
626 Military Ambulance 626 グリーン
660 Mighty Antar Tank Transporter 660 黄色キャブ・白トレーラー/グリーン
693 7.2 Howitzer 693 グリーン
708 Vickers Viscount 800 BEA 708 銀翼に白・BEA
735 Gloster Javelin 735 グレー英空軍/英空軍カモフラージュ
738 De Havilland 110 Sea Vixen 738 グレー英空軍/英海軍/インド空軍
949 Wayne School Bus 949 カラー不明
953 Continental Bus 953 カラー不明
962 Muhr Hill Dumper 962 グリーン
999 De Havilland Comet Comet 999 メタグレー翼に白・青にBOACロゴ


 #295 Standard Ambulance from Nicky Toys


箱なしで入手、裏板には刻印も印刷もラベルも何もなく、このままではメーカーも車種も、製造国すらわからないのですが、エドワード・フォース博士の「ディンキー」のガイドブック(Dinky Toys Revised 4thEdition With Price Guide)136ページにカラー写真が掲載されているおかげで、インド・ニッキー製のモデルであることが知れます。



フォース博士はこの本の中で、「ディンキーにインスパイアされたモデルたち」(Models Inspired byDinky Toys)という章を設けていてくれるので、大変に助かりました。「インスパイアド」というのは、「吹き込まれる」「示唆される」といった意味で、「吹き込まれる」のが「インスピレーション」です。日本では日立グループが「Inspire the Next」という企業スローガンを使いはじめて「有名」になりました。

単に「コピー」とか「クローン」とかの言葉には、「マネをして金を儲ける」といったニュアンスしか感じませんが、「インスパイアド」には、「自分たちもこんな製品を作ってみたい」といった前向きな技術屋マインドが感じられる、と思うのは私だけでしょうか。



「ニッキー」では、同じ「#295」の品番で、「スタンダード・ミニバス」、「スタンダード・アンビュランス」(白)の2台が作られました。

もとになっているのはディンキーの「#295-G Standard Atras Kenebrake」で、「ニッキー」での品番は、そのままディンキーの品番と一致しています。
ディンキーでの生産は1960年から1964年の古い金型で、ニッキーでの生産が1968年頃からだとしても、ツジツマは合います。

ディンキーでは、ペイルブルー/ライトグレーのツートーンと、ペイルブルー1色の民間仕様が作られただけで、救急車は作られていません。

この車種の救急車がイギリスやインドに実際にあったかという詮索は別にして、救急車としては非常に面白いカタチをしたモデルになりました。
赤十字のマーキングは、紙シールなどではなく、水貼りデカールを貼り付けています。




 「ミルトン」(Milton)─コーギー金型を使って生産された標準スケールモデル


「モーガン・ミルトン」(Morgan Milton PVT. LTD. Calcutta 16)もカルカッタを拠点とする会社でした。インドの古いミニカーブランドとしてご紹介する「ニッキー」「ミルトン」「マクスウェル」の3社全てがカルカッタを拠点とする会社だったことになります。

ところで、「カルカッタ」という発音は英語圏(Calcutta)でのもので、古い文献に出て来る元の名前は「カリカタ」、2001年には「コルカタ」(Kolkata)というベンガル語での呼称に正式に変えられたということです。インド東部、西ベンガル州の州都で、バングラデシュに近いところにあります。

「カルカッタ」と言えばマザー・テレサが最初に活動を開始した街ですが、オリビア・ハッセーの主演した映画「マザー・テレサ」(2003)の中には、ベドフォードの新旧2種の救急車が登場します。白1色で、赤十字を描いており、英語で「AMBULANCE」のマーキングもあります。コーギーの作った「#412」あたりのイメージの車輌です。この映画では、ヒルマン・ミンクスや、カラフルにペイントされた乗合バスなど、たくさんの車輌を見ることができます。このページの冒頭タイトル下に掲げた「I am an Indian, andIndia is part of me(アミ・パラテル、バラト・アマル/私はインド人、インドは私の一部)」は、映画の中でインドの官憲が「あなたはインドを蔑視しているのか」と言ったことに対するのマザーの言葉です。


「ミルトン」についての情報も極めて少ないですが、ケイト・ビックフォード(Keith Bickford)による、世界のダイキャスト・ブランドの解説サイト(Diecast Oddities presented by The Bickford DiecastResearch Center/http://http://www.kbickford.com/AlphaM.html)に、若干の記述があります。


左がミルトン、右はコーギー製モデル。

「ミルトン」は、主として英国メーカーの金型を使って、ダイキャスト・モデルを製造しました(Milton wasa Calcutta-based company that used U.K. dies to produce diecast models.)。その中には、コーギーの「コマー・バン」「ルートマスター・ロンドンバス」などが含まれます。
またミルトンには「スチュードベーカー・ホーク」も作っていて、これがディンキー金型によるもの、あるいはディンキー・コピーとしている説明もあるようですが、ケイト・ビックフォードは、この「スチュードベーカー・ホーク」もまたコーギー金型によるものと考えている、としています。概して「ミルトン」製品は、オリジナルに比べてエッジが甘かったり、キャスティングが荒れているようです。

コーギー金型がどういう経緯で「ミルトン」に流れたか、とい経緯を記述した資料は発見できていませんが、いずれにしても「ニッキー」が「ディンキー」金型を入手していたように、「ミルトン」もまた一部の「コーギー」金型を入手していたと考えて良いように思います。
「ニッキー」が「インド・ディンキー」、「ミルトン」が「インド・コーギー」と言われる所以です。
(ただしこれらはコレクター間での「俗称」であって、「ニッキー」や「ミルトン」がインドにおけるディンキーやコーギーの工場だったわけではなく、その点では「フランス・ディンキー」などとはポジションが異なります。)

中島登著・『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』(二見書房・1980年)では、ニッキー(インドディンキー)同様にミルトンの「シボレー・インパラ・タクシー」を取り上げており、「1967年製造・日本に輸入」としています。

コーギーを生産していた英国メットーイが破綻したのは1983年10月31日で、ディンキーのリバプール工場が閉鎖された1979年11月の4年後にはコーギーもまた同じような境遇に見舞われたわけですが、この初版は前出のように1980年3月ですから、コーギーの破綻以前からミルトンがミニカー製造をしていたのは明らかです。ミルトンについても、1960年代の後半から、コーギー金型の譲渡を受けての、または「コーギー製品にインスパイアされた」モデルの生産が行われていたと考えて良いと思います。


『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』 p96


『カラー版・ミニカーコレクション・オール絶版車カタログつき』 p212



この箱は黄色と赤ですが、中には黄色とブルーの配色のものもあり、そうなるとコーギーのパッケージ・デザインを彷彿とさせます。
「Precision Die-cast Scale Model Cars」(精密ダイキャストスケールモデル)の表現に目を奪われますが、60年代においてコーギーの金型は確かに「精密ダイキャストスケールモデル」でしたから、その神通力をそのまま借りて来ているということで、看板に偽りは無いことになるでしょう。




箱には、フラップ部分にまで「ミルトン・トイを集めよう!」といったセールストークが見られます。
「Insist on」というのは、「あくまで、こだわって要求する」といった意味なので、「ミルトン・トイをご指名ください!」といった感じでしょうか。ミニカーにコレクション製を持たせていたことはわかりますが、反面で英語での表示をしていることで、購買層を限定しているような印象も受けます。

パッケージでは「Mini Auto」「Milton Mini-Auto Cars」「Milton Toy」など色々な表現が使われていて、時には「Miltan」(ミルタン)と書かれたものもあるようです。
これが、歴史的に何か特別な意味があるのか、単なるミス・スペルなのかは判然としません。
インドの連邦公用語はヒンディ語ですが、「コルカタ」の発音の元になっているベンガル語、その他アッサム語/タミル語/パンジャーブ語等々、大変な多言語国家なので、そのことと関係があるのかもしれません。

さらに「アルゼンチンとブラジルの小スケールミニカー」のページでも多用した洋書資料『Encyclopediaof Small-Scale Diecast Motor Vehicle Manufactures』にも、p72に若干の記述があります。ただしこの本は、原則として対象を小スケール・モデルに限定しているため、次のような記述にとどまっています。

『ミルトンも所在地はカルカッタ。小スケールモデルとして良く知られているのは、
-メルセデス梯子消防車
-ストレッチャ・フィッチャ(マッチボックスのコピー)
-フラットベッド・トラック(シュコーのコピー)
-パッセンジャー・バス

これは、1970年代後期製と考えられる。
メルセデス・梯子消防車のキャブとシャシは、他のコマーシャル・ヴィークルにも転用された。』


 「ミルトン」の製品リスト

ミルトンについては、まとまった製品リストやカタログ資料に遭遇していないため、リストは「ニッキー」以上に不完全です。

「ジャガー2.4リッター」は、ディンキーとコーギーの両方がモデル化したため、ニッキーとミルトンもともに製品化している、という現象が見られます。いわばディンキーとコーギーの「代理戦争」がインドでも戦われた、ということでしょうか。「ミルトン・トイをご指名ください!」の意味がわかってきます。

品番
製品名
品番不明 Chevrolet Impala
305 Chevrolet Impala State Patrol
305 Chevrolet Impala Fire Chief
306 Chevrolet Impala Taxi
321 Commer Ambulance
321 Commer Military Ambulance
品番不明 Commer Commercial Van "Milton Toy Carrier"
品番不明 Commer Pick-up
品番不明 Commer Delivery Van "Coca Cola"
327 Jaguar 2.4 Saloon
329 Ford Mustang
337 Routemaster Bus
342 Riley
807 Plymouth Sports Suburban Estate Car
817 Luxury Coach
818 Caravelle SE210 "Indian Air Lines"
品番不明 Morris Mini Minor
品番不明 Leyland Octopus Tanker "Shell Burma"
品番不明 Trailer Tanker "Indian Oil", "Caltex", "Bharat Petroleum"
品番不明 Civil Ambulance (Matchbox Superfast Stretcha Fetcha のコピー)(小スケール)
品番不明 Vintage Car (マッチボックス・イェスターイヤーのT型フォードのコピー)
「Milton Mini Vintage」シリーズ


 #807 Plimouth Sports Suburban Estate Ambulance from Milton Toys


コーギーの「219-A」(1959〜1963年)の金型を使って救急車に仕立てたもの。コーギーの「219-A」は、初期平滑ホイルと、その後のプレス・ホイルのバリエーションがあるだけで、救急車は作っていません。その後コーギーは同じ金型を使って「445-A1」で1963年4月〜1967年にもう一度ノーマル乗用車を、1963年8月から1966年に「443-A」で「U.S.メイル・ワゴン」を作りました。したがって1967年には絶版になっていた金型です。

「ニッキー」とは違って、裏板に車名とメーカー名のモールドがあります。
しかし、「Made in India」の刻印はありません。アルゼンチンやブラジルのように、関税対策上の必要性がシビアではなかったためでしょうか。

白塗装はまずまずと思いますが、窓周りなどにバリが目立ち、金型が荒れているように見受けられます。


 #321 Commer 3/4 ton Chassis Ambulance from Milton Toys



コーギーのコマー・3/4t(スリー・クォーター)の金型を使ったもの。
このモデルに関してはコーギーも「463-A」で救急車を作っています。

コーギーのコマー・3/4tシャシは、「463-A」(1964年2月〜1966年)の救急車のほか、「464-A」(1963年7月〜1968年)でポリス・バン(屋根上灯・点灯ギミック付き)を、「354-A」(1964年2月〜1966年)で軍用救急車を、「355-A」(1964年2月〜1965年)でミリタリー・ポリス・バンを、「466-A」(1964年4月〜1969年)でミルク・フロートを、「465-A」(1963年7月〜1966年)でピックアップを作っています。



こちらは本家「コーギー」製品

救急車やポリスでは後部が密閉式のバス型ボディですが、キャブと分離して成型されており、ピックアップ荷台や、牛乳運搬車の開放式荷台などと差し替えられるような設計になっていました。

この仕組みを活かしたのが「コンストラクター・セット」というギフトセット(GS24-A1・1963年〜1969年)で、コマー・3/4tのキャブ付き車台が2台付き、ミルクフロート/救急車/ピックアップなどの荷台が3種付いて、差し替えて遊べるようになっていました。1969年のギフトセット版を最後に、絶版になった金型ということになります。

ミルトン版は、後部バス・ボディ部が裏板まで貫通してビス止めされていて、コーギーのギフトセットのようにとりはずしたりすることはできません。ただしミルトンも、バン・ボディの商用車、ビックアップ、「ミルクフロート」の荷台を活かした「コカ・コーラ・トラック」を作っています。

ミルトンは、フロントのグリル周りなどが多少ヨレているような感じはありますが、キャスティングの状態はなかなか良いのではないかと思います。
ミルトン製では、白塗装で側面に「AMBULANCE」のデカールが貼られたものもあるようです。



左がコーギー、右がミルトン。
正規金型だとは思うのですが、ピミョーに変形しているのもわかります。少なくとも全長に差は無いようです。コーギーは前が青色回転灯、後ろは患者搬送部の換気用ベンチレータなのですが、ミルトンでは両方とも白い突起になってしまいました。



 #321 Commer 3/4 ton Chassis Military Ambulance from Milton Toys



コーギーが、白の救急車と並行してオリーブ・グリーンの軍用救急車を作っていたのと同じように、ミルトンも軍用救急車を作りました。

患者搬送部の窓が赤になっているのが妙な感じですが、搬送部のインテリアが何も入っていないことを隠す処置でしょう。(ただしコーギー版も搬送部のインテリアはありません。)
患者搬送部の窓は、濃いブルーのものもあります。

デカールの質がよろしくないことで、仕上げ的にはだいぶん損をしています。
パッケージは、マーキングのない民間型パスと共用で、「ミリタリー・アンビュランス」の印刷のあるものも白い救急車のイラストレーションを描いています。



民生用と軍用のツーショット(ともにミルトン)


インド製・ミルトン(ミリタリー)


インド製・ミルトン(民生用)


コーギー製品


 #305 Chevrot Impala State Patrol from Milton Toys


以下の2点は珍しく箱が残っているため、ミルトンでの品番を確認できます。
この箱が極めて紙質が悪くヘナヘナで、このこたはパッケージの現存率が下がる原因を作っているように思えます。

コーギーは「インパラ」の金型を実は2つ作っています。
ひとつは、「220-A」(ノーマル・セダン・1960年1月〜1965年)/「223-A」(ポリス・1959年12月〜1965年)/「221-A」(タクシー・1960年6月〜1965年)/「439-A」(ファイアチーフ・1963年1月〜1965年)に使われたもので、ボディと裏板が通常の方式で分離されています。ミルトンはこの金型を使って(もしくは参考にして)います。

もうひとつは、「480-A」(タクシー・1965年6月〜1967年)/「481-A」(ポリス・1965年8月〜1969年)/「482-A」(ファイアチーフ・1965年6月〜1969年)に使われたもので、ボディのツートーンを表現するために、ボディ下半分と裏板が一体になっているという特殊な構造を持ちました。この後でご紹介するインドの「マクスウェル」がこちらの方式を採用しています。(ただし「マクスウェル」の方はコーギーに「インスパイア」されているだけで、コーギー金型は使っていないようです。)

実はこのモデルは、もう随分以前に「インパラへの郷愁」でご紹介し、コーギーやミクロペットのキャスティングとの比較をしました。
「ステート・ポリス」という商品名ですが、もちろんインドの州警察ではありません。
もともと英コーギーがアメリカ市場を意識して作ったもので、アメリカの州警察のラベルをインド版でもそのまま「インスパイア」しています。

インドの子供たちにとっては、インパラも、アメリカの州警察(ハイウェイ・パトロール)もあまり馴染みはなかったのではないかと思われ、こういう点にもインド製ミニカーの輸出重視姿勢が感じられるような気がします。


パッケージに、アンテナ部品の保護のための
紙製のガードが含まれているのは、コーギーと同じ。


左がコーギー、右がミルトン。
インドのポリスカーに仕立てようという考えはなかったらしく、
ドアのラベルまでがコーギーにそっくりです。


インド製・ミルトン


コーギー製品


インド製・ミルトン。
文字が躍っており、裏板にブランド・ロゴタイプの書体をキチンと掘り込むことにも
技術が必要とされることが知れます。


コーギー製品


 #306 Chevrot Impala State Patrol from Milton Toys


赤1色のインパラですが、消防指令車ではなく「POLICE」のデカールを付けており、パッケージの商品名も「ステート・ポリス」になっています。
黒の「ステート・ポリス」と品番は同じ「#305」ですが、何故かアンテナ位置を車体前部に変えています。

別メーカーであるマクスウェルも、リンカーンやヒンドスタン・アンバサダーをベースに赤いポリスカーを作っているのですが、はたしてインドには赤いポリスカーがあったのでしょうか。


左がコーギー(ただしファイアチーフ)、右がミルトン


インド製・ミルトン


コーギー製品


インド製・ミルトン


コーギー製品
裏板のレイアウトが違っています。


左がコーギー、右がミルトン


左がコーギー、右がミルトン



左2点がコーギー、右2点がミルトンです。
ミルトンはコーギー金型を使っていて、「コピー」ではない、という立場からモデルを見て来たのですが、実はこのインパラに関する限り、ミルトンは全長でコーギーよりもわずかに小さいのです。
各所のニュアンスも微妙に異なっていて、どうも少なくともこのインパラについてはコーギーとは別金型が起こされていると考えて良さそうです。

まさにコーギーから「インスパイア」されたモデルですが、コーギーとどのような許諾関係にあったのかは知る由もありません。



この稿を作成中に、「アルゼンチンとブラジルの小スケールミニカー」を読まれた、という方からメールをいただきました。私が「ムーキー」のものより小さい、と書いたジルメックスのフェラーリについて、その方の所有されているものは少し大きく、エンジンフードのルーバー部分もマッチボックス同様プラパーツになっている、私がサイト上に掲載したモデルは「後に二次、三次的に社内で複製された金型で作られた物ではないか」「プラに比べ金属の成型は金型の破損も激しく、かなりの数を作っている場合は金型が作り直される頻度も高かったのではないか」というご指摘なのです。(ありがとうございました。)

ここで重要なのは、「ジルメックスのフェラーリ」=「ひとつの金型」とは言えない場合がある、という点です。例えば、ミルトン製のインパラについて、「私が現に手に入れたものはコーギーより小さいので、オリジナル金型からのキャスティングではない」ということは、「ミルトンはコーギーのオリジナル金型は入手していなかった」ということを必ずしも立証しない、ということです。

例えば、「生産の初期段階ではコーギーのオリジナル金型を入手して生産」「相当数を生産したため、金型が疲弊」「オリジナル金型の修復がむずかしくなったため、複製金型を起こした」「オリジナル金型を購入しているため、複製金型を起こして生産し続けることは権利関係の上で問題ないと判断した」といったことが考えられるということです。したがって、「特定のモデルがコピーのようだ」ということと、「そのメーカーは海賊版を作り続けた」ということとは分けて考える必要があるわけで、この点は意識していきたいと思います。




 英国金型に依存しなかった「マクスウェル」(Maxwell)



「マクスウェル」(Maxwell Co.)もカルカッタを拠点とした会社で、ダイキャスト・モデルを製造したのは1970年代、モデル化されているのは1960年代のクルマが多く、それらはコーギーやマッチボックスから「インスピレーションを受けた」ものが多く見受けられるものの、金型そのものは英国メーカーから供給されたものではないようで、明らかに独自設計と思われるものも含まれます。

ケイト・ビックフォードのダイキャスト・ブランドの解説サイト(Diecast Oddities presented by TheBickford Diecast Research Center/ http://http://www.kbickford.com/AlphaM.html)でも、カタログをPDFで掲載(http://www.kbickford.com/images/Maxwell_Catalog.pdf)しているほかは、解説を「ダウ・ブレイソープトのサイトに素晴らしい解説があります」という表現でゲタを預けるカタチになっており、そのブレイソープトのサイト(Maxwell Mini Auto Toys from India by Kimmo Sahakangas/ http://www.breithaupts.com/totc293.htm)ではモデルの写真は掲載されているものの、メーカーとしてのマクスウェルの盛衰の経緯は全く書かれていません。

ブレイソープトのサイト中の、キモ・サハカンガスによる記事の一番上に掲げられているのが、マクスウェルのカタログの冒頭に所収されている「あいさつ」ページです。

ところで、このカタログや、インド製ミニカーのパッケージ上の表記は全て英語になっています。
インドの連邦公用語はヒンディー語ですが、各州及び連邦首都圏・連邦直轄地で指定される公用語は異なっており、州の中には英語だけを公用語として指定しているところもあります。(アルナーチャル・プラデーシュ州/ナガランド州/メーガーラヤ州/チャンディーガル連邦直轄地域/ラクシャディープ連邦直轄地域など)

今後は英語を第二言語とするインド人が増加していくと考えられているのですが、「マクスウェル」などのミニカーが作られていた1970〜1980年代に、どれほどの英語人口があったかには大いに疑問が残ります。インドでの英語の話者は、2000年頃に人口の2〜3%、多くて5%とした記事があります。人口が10億ですから人数的には2000〜5000万の間というところになりますが、それでも全人口に対する比率が極めて低いことには変わりがありません。

もしこういったミニカーのカタログが英語版しか存在しないのだとしたら、人口のわずか2〜3%を対象として想定した商品だった、ということにもなるわけです。




ブランド(営業標)としては、「Maxwell Mini Auto Toys」「Maxwell Mini」「Maxwell Toys」などが使われましたが、シリーズとして別のものを指していたり、何らかの基準のもとに使い分けられたということではないようです。時期的な使用の違いはあるかもしれませんし、後期では上の画像のパッケージ妻面に見られるタンク(戦車)のシンボルマークを使用したようです。

「マクスウェル・ミニ」の「ミニ」は、特にスタンダート・サイズに対する小スケールのシリーズを指しているというわけではなく、「Mini Auto Toys」を省略したものということでしょう。


 マクスウェル・製品リスト

以下は、ケイト・ビックフォードのサイトにPDF形式でアップされているカタログ(http://www.kbickford.com/images/Maxwell_Catalog.pdf)をもとに作成したものです。

品番は500番台から始まる3桁品番ですが、欠番もなく、バリエーションも含めてひとつひとつ丁寧に付けられており、全体として100点以上を製品化していることに驚きます。

カタログには何故か年次が明記されていませんが、#545番のボーイング747がブリティッシュ・エアウェイズのマーキングになっており、したがってBEA(英国欧州航空・British European Airways)とBOAC(英国海外航空・British Overseas Airways Corporation) が経営統合して英国航空(British Airways)になった1974年以降のものということになります。商品名は「B.O.A.C. Mini Jet Boeing」のままになっていること、#532のパッセンジャー・コーチのエアライン名が「B.O.A.C.」のままになっていることから、統合から間もない時期とも思えます。それにしても747「ジャンボ」をして「ミニ・ジェット」という商品名を付けるとは、何とも不思議な感覚ではあります。

501 Tank 551 Jeep Ambulance
502 Road Roller 552 Racing Car
503 Greyhound Luxury Coach 553 Volks Wagen
504 Racing Car 554 Jeep Carrier
505 Lincoln Continental Green 555 Two Seater
506 Mercedes 1100 556 Ambassador Taxi
507 Premier President (Fiat 1100) 557 Boeing 747 Air India
508 Jeep with Engine 558 Impala
509 Vauxhall Guildsman 559 Impala Highway Patrol
510 Ambassador MarkII Green 560 Impala Fire
511 Racing Mini 561 Impala Police
512 Volvo 1800 562 Impala Taxi
513 Lincoln Continental Police Car 563 Petrol Tanker H.P.
514 Lincoln Continental Fire Car 564 Petrol Tanker I.B.P.
515 Lincoln Continental Ambulance Car 565 Petrol Tanker Indian Oil
516 Hovercraft 566 Petrol Tanker Esso
517 Double Decker Bus 567 Petrol Tanker Caltex
518 Jeep with Bonnet 568 Petrol Tanker Burmah Shell
519 Jeep Ambulance 569 Ford Tractor 3600
520 Ambassador Fire Service 570 Tractor H.M.T. Zetor
521 Ambassador State Police 571 Jeep Armored Car
522 Ambassador Taxi 572 Ford Escort Tractor 335
523 Fiat 1100 Taxi 573 Douglas Skyhawk , Navy Plane
524 Mini Bus 574 Vintage Car
525 Intercity Commuter 575 Dump Truck
526 Pick Up Van 576 Helicopter
527 School Bus 577 Campa Cola
528 Setra Bus 578 Thumsup
529 Aircraft Carrier 579 Hindstahn Mini Tractor
530 Indian Airlines Passenger Coach 580 Rescue Helicopter
531 Jeep Fire Service 581 Mini Tanker H.P.
532 B.O.A.C. Passenger Coach 582 I.B.P.
533 Ambulance Bus 583 Indian Oil
534 Pipe Carrier 584 Esso
535 Freight Carrier 585 Caltex
536 Circus Van 586 Burmah Shell
537 Gold Spot Van 587 Matadol Delivery Van
538 Brake Van Service 588 School Bus Matadol
539 Boeing 747 Lufthansa 589 Ambulance
540 Fruit Carrier 590 World War 1 Nieuport 17
541 Mig War Aircraft 591 Field Gun
542 Mirage War Aircraft 592 Militwry Transport Plane
543 Mini Jeep 599 Eicher Tractor
544 Racing Motorcycle 600 International B-275 Tractor
545 Boeing 747 British Airways 601 Swraj Tractor
546 Boeing 747 Swiss Air 607 Mini Jeep Police
547 Coca Cola Van 608 Military Jeep
548 Animal Carrier
549 Tractor
550 Jeep Blue

アクセサリーシリーズ
Road Sign
Road Sign 6Pcs
Road Sign 12Pcs
Flags of Different Countries
Flags of Different Countries 6Pcs

ディンキーや日本のモデルペット同様、道路標識や「万国旗」などのアクセサリーも製品化されていたようですが、これらには3桁品番は付けられていなかったようです。


 #533Ambulance Car (Res Cross Bus) from Maxwell Mini


私が手にしたインド製モデルとしてはかなり初期のもので、「#533」の赤十字バス。
パッケージでの表示は「Ambulance Car」、カタログでの表記は「Ambulance Bus」になっていたりと相当に「おおらか」ですが、救急車(患者搬送車)ではなく、赤十字の人員・器材輸送車輌で、ボディ側面には赤十字とともに「ユニセフ」のシンボルマークを付けています。

車内にはインテリアが入っており、3列のベンチシートという不思議な座席配置です。



パッケージに描かれたバスのイラストレーションは、曲面を持った良い感じのボディを持っていますが、ミニカーの方は車体全長をショーティーにデフォルメされた上に、かなりカクカクしたものになってしまいました。

ただし私の知る限り、英国メーカーをはじめとして思いあたる金型が無いので、マクスウェルが独自に開発したものと考えて良いのではないでしょうか。実車のプロトタイプを指摘する知識は私にはありませんけれど、インド国産のバス車体かもしれません。

マクスウェルはこのバス金型を使って、他にもスクールバス(#527)、B.O.A.C.パッセンジャーコーチ(乗客輸送バス・#532)、インド航空パッセンジャーコーチ(#530)、ミニバス(#524)を、ボディ後部の側面窓を塞いでピックアップ・バン(マクスウェル・トイ・キャリアー・#526)、キャブと車台だけを使ってレッカー(#538)、フルーツ・トラック(#540)、キリン運搬車(サーカス・バン#536)、コカ・コーラ・バン(#547)、ゴールド・スポット・バン(#537)、といったモデルを作っています。
「ゴールド・スポット」というのは、1993年まで作られていた、インドでポピュラーだったオレンジ・フレーバーの清涼飲料です。

「キリン運搬車」はコーギーに有名なモデルがありますが、金型入手にこだわることなくバス金型から作ってしまうのがスゴいところで、アルゼンチンの「MUKY」が「デオラ」金型からたくさんの「はたらくクルマ」を作ったことを思い出させます。

カタログのイラストレーションを見る限り、エアラインのパッセンジャーコーチはクロスシート(座席が進行方向を向くタイプ)、スクールバスや赤十字バスはベンチシート(座席が横置きでボディ側面と対面式に並行するもの)を作り分けるこだわりを見せています。

パッケージには「Precision Die-Cast」(精密ダイキャスト鋳造 ! )のプリントが誇らしげですが、ミルトンの表記(「Precision Die-cast Scale Model Cars」)に触発されたものでしょうか。

裏板は「ニッキー」と同じように、ブランド名/製品名/製造国表示など何の刻印も無いもので、パッケージを失うとインド製であることがわからなくなってしまう難点があります。
やはり、ミニカーの仕上げでは「ホイル」がネックになることがうかがえます。



 #521 Hindustan Ambassador Mk.U  State Police from Maxwell Mini

実は「マクスウェル」の沿革などについての記述をネット上で検索していたところ、オンラインショップ上での「マクスウェル」製品の在庫をヒットしてしまったのですね。それもコレクター放出品という感じではなく、デットストックと思われる在庫をかなり持っている様子の店なのです。

ところが店の所在地はスペイン領カナリア諸島、サイトはスペイン語です。ユーロ札を送る覚悟でコンタクトを試みたところ、サイトをいじくり回しているうちに英語表示にすることができ、ペイパル決済も可能であることがわかりました。
結果的に対応は丁寧、送料は保険付きを指定されたものの、ほぼ通常の価格、発送はヨーロッパからよりも余程早く着くというオマケ付きで、以下ご紹介するモデルを手に入れました。

デッドストックであることの証明には、私が買った後にも「Sold Out」(売り切れ)になる気配が無く、どうやら同一品番で複数在庫を持っているようです。



インド国産車である、「ヒンドスタン・アンバサダー・マークU」のポリスカー。
「ミルトン」はインパラの真っ赤なポリスカーを作りましたが、マクスウェルのこのモデルは、車種選択といい、黒塗りの渋さといい、完全に私の「好み」です。
カタログ上での商品名は「State Police」(州警察)になっています。車種選択から言ってアメリカの州警察ということではなく、インドの州警察と解釈しています。

「アンバサダー・マークU」は、インドの「ヒンドスタン・モーターズ」社がイギリスのモリス・オックスフォード・シリーズTをライセンス生産したのが始まりで、以来大きなモデルチェンジを受けずに現在でも作られ続けているインドの国民的国産車です。最近の生産分は、いすゞ製1.8リッター4気筒OHVを載せているということです。

ディンキー/コーギーなどで、このクルマの元になっているモリス・オックスフォードの金型を探したのですが、どうもそれらしいものは見当たらず、これもマクスウェルの独自開発製品ではないかと考えています。

インド政府は、輸入車から国内市場を守るために、外国車の輸入を禁止しました。その政策は国内の自動車産業育成期での時限的なものではなく、その後も恒常的に持続しました。
 国内の自動車産業が育って来た段階でインド国外への輸出努力がなされれば良かったのですが、それが行われなかったたために、長い間インドの自動車産業は国際市場から切り離されてしまい、政府の保護下にある国内市場に安住する体質が定着しました。その結果国産車はハイ・コストで、かつ競争下に置かれないために積極的なモデルチェンジを行う必要がなくなってしまったのです。
ちょうど、社会主義政権下での東ヨーロッパの事情と共通するものがあると言えるでしょう。

これが、「アンパサダー」が現在に至るも生産されている理由のようです。


 #522 Hindustan Ambassador Mk.U Taxi from Maxwell Mini


同じく、「ヒンドスタン・アンバサダー」のタクシー。

黒ボディに黄色屋根は、ブエノス・アイレス/サン・チアゴなどの南米都市のタクシーと同じカラーで、これも完全に私の好み。
アカデミー賞(作品賞を含む8部門)を獲って話題となった「スラムドッグ$ミリオネラ」(2008年のイギリス映画)には、ムンバイ(ボンベイ)の街中にこの色のタクシーがひしめく姿が映し出されています。




タクシーとポリスのツーショット。同じ「アンバサダー」で他に「#510」で乗用車を、「#520」で消防指令車が作られています。ホイルはいわゆる「ホットスタンプ」型のホイルキャップ・パターンを持つスピードホイル形式のものを付けており、製造が1970年代以降であることを物語ります。

私がカナリア諸島から入手した一連のモデルの製造時期はおそらく「ニッキー」や「ミルトン」より遅く、80年代以降なのではないでしょうか。

赤十字バスと違って、アンバサダーでは裏板に車名とブランド名がモールドされています。
(上がタクシー、下がポリスカーのもの。)




「タクシー」と「ポリス」は同じ金型から作られていますが、どうしたわけか入れられているパッケージの大きさが違います。左がタクシー、右がポリスの入っていたもの。

箱およびカタログ掲載のイラストレーションも、タクシーはボディが黄色1色のものになっており、そうした仕様のモデルも作られているのかもしれません。



 #523 Premier President (Fiat 1100) Taxi from Maxwell Mini


パッケージの車名は「フィアット・タクシー」、カタログでの車名は「プレミア・プレジデント」になっています。
「フィアット1100D」は、1200グランルーチェのデザインをシンプルにしたマイナーチェンジ車で、イタリア本国での生産は1962〜1966年ですが、1964年からは「プレミア自動車」によってインドでも生産され、「プレミア・パドミニ」として2000年まで作られたそうです。「プレミア・パドミニ」と「プレミア・プレジデント」の違いは良くわかりませんが、おそらくこのクルマをモデル化たものと解釈しています。

なにぶんフィアットということで、メーベトーイやポリトーイズなどのイタリアのメーカーが作っているので、それらのモデルから「インスパイア」されているかもしれませんが、やはりマクスウェル独自金型と考えています。




実はマクスウェルの後期の箱は、極めて不思議な構成になっています。

他のメーカーでは、ひとつひとつの製品のために特定の品番・車名・イラストレーションを入れて作られた個装箱か、各製品共用を前提に作られたジェネリック箱のどちらかなのですが、マクスウェルはひとつの箱で2つの製品の車名・イラストを表示しているのです。

つまり、アンバサダーのタクシーとフィアットのタクシーは、同じタクシーということで実は同じパッケージに入っているのです。箱の4面のうち、2面に「アンバサダー」を、残り2面に「フィアット」を印刷しています。何とも「エコ」な、ちゃっかりした方法だと言えるでしょう。ただし妻面には品番を印刷しています。
 荷物が届いた時点では、注文と違う品が届いたのではないかと一瞬動揺してしまいます。

入手したものでは、ツヤの無い紙に印刷された通常のものと、表面にビニール・コートをしたツヤのあるもの(PP加工と言われるもの)の2種がありました。おそらくツヤありのものは近年の生産分ではないでしょうか。




 #559 Impala Highway Patrol from Maxwell Mini


同じインド製でミルトンもインパラのポリスを作りましたが、マクスウェルもインパラの「ハイウェイ・パトロール」を作りました。ミルトンがコーギーの「#223-A」に似ているのに対して、マクスウェルは、コーギーの「#481-A」にツクリが似ています。シャシがボディ側面下部にまで回り込んでいる形式です。

「ハイウェイ・パトロール」といいつつも、おそらくはインドのハイウェイ・パトロールではなく、アメリカン・ポリスをイメージしたものでしょう。イギリス警察やシカゴ市警のような、チェッカー・パターンのデカールを付けています。

マクスウェルは、この「559」番の「ハイウェイ・パトロール」とは別に、「561」番で「Impala Police」という商品名がカタログ上に見えますが、どういうカラーリングのモデルなのかは未確認です。

裏板には社名/ブランド名/生産国表示、ともに何のモールドもありません。



 #560 Impala Fire from Maxwell Mini


ミルトンでは赤1色の「ポリス」がありましたが、マクスウェルでは赤/白ツートーンはポリスではなく消防指令車です。
屋根上に、ぬかりなく「FIRE」のサインを付けています。



 #562 Impala Taxi from Maxwell Mini


同じく、インパラのタクシー。
パッケージのイラストレーションは、ハイウェイ・パトロールと消防指令車では都会風の絵でしたが、タクシーでは何故かヤシの木の生い茂るビーチになりました。

果たしてこれは、インドの風景なのか、それともフロリダやカリブをイメージしたものでしょうか。
コーギーが作った「バーミューダ・タクシー」(#430-A)を思い出させます。



ファイアチーフとタクシーのツーショット。
屋根上のサインのカタチを作り分けています。

原色の色彩、妙にツヤのある塗装、プラスチックの小さすぎるホイルなど、日・米・欧の製品には見られない「キッチュ」な味わいを発散させています。たぶんこれは、この時代のインド製品でなければ持っていない風合いなのではないでしょうか。
ヒンドゥーの神々の原色の聖画や、インド映画のエピローグで踊られるダンスのシーンを思い出させます。


 #562 Impala from Maxwell Mini


ハイウェイ・パトロール/ファイアチーフ/タクシーの元になった、インパラのセダン。

ポリス/消防/タクシーはカナリア諸島の店から最近入手したもので、ビニール・コートされたツヤツヤの箱に入っているのに対して、セダンのはそれよりも入手時期が古く、ツヤの無い紙箱に入っています。ホイルも違うタイプを付けています。

ボディはメタリックのワインレッドですが、メタリックの塗装というのは通常のオペーク(透明度の無い塗料)のものより塗装がむずかしいようで、特に裏板面などはかなり荒れた塗装面になっています。



パッケージは、例によってひとつの箱の別々の面に「タクシー」「消防」などが印刷された形式で、
「POLICE」「FIRE」「TAXI」の3種がひとつの箱に、もう1種にはノーマル・セダンとハイウェイ・パトロールが印刷されています。

基本的にはミニカーはコレクション・トイですから、タクシーを入手した人に対して、「ポリスや消防も作られているのか」という情報を伝えるためのミニ・カタログ的な役割も果たしたのでしょう。

コストを抑える手段としてはなかなか優れていると思いますが、現在の目で見ると、内容物の誤認や「不当表示」のそしりを招きかねません。箱の中に入っていない商品が入っているかのような誤解を与えるからです。箱の妻面には、内容製品の名前と品番が明記されています。

果たしてこれらのミニカーは、インド国内ではどのぐらいの価格で買えたのでしょうか。







 恒例の金型比較


マクスウェルのインパラについては、コーギーから影響を受けているのはほぼ明らかなので、恒例の金型比較をしてみることにしましょう。

先にも書いたように、比較対象はコーギーの「#223-A」(ボディと裏板が通常の位置で分割されているもの)ではなく、「#481-A」です。ボディはサイドモールの位置で上下分割されており、シャシがボディ側面下部にまで回り込んでいます。コーギーでは、ボディの分割位置にプラ部品を挟み込むことで、サイドモールのメッキを再現していました。コーギーらしい独自の工夫と言えるでしょう。

コーギーでの生産期間は「#223-A」(シボレー・ステートパトロール)が1959年12月から1965年です。
この金型は、ノーマルセダンが「#220-A」(1960年1月〜1965年)、タクシーが「#221-A」(1960年6月〜1965年)、消防が「#439-A」(1963年1月〜1965年)でした。

一方「#481-A」(インパラ・ポリス・カー)は1965年8月から1969年で、完全に「#223-A」の後継として生産されており、金型的にも別のものです。

こちらは、タクシーが「#480-A」(1965年7月〜1967年)、消防が「#482-A」(1965年6月〜1969年)、上下分割のボディを活かして、上後部をバンに改造したケンネルバン(#486-A・1967年3月〜1969年)、プードル・トラック(#511-A・1970年12月〜1972年)も作られました。
コーギーがスピードホイル化される直前の、絶頂期を迎えていた頃の製品です。

コーギーのこの「ボディ上下分割方式」は、ミニカー史の上でも非常に特異な成型方法と言えますから、そもそもマクスウェルのインパラがこれと全く同じ分割方式を採用していることから言って、コーギーを「参考にしている」ことに疑いはないと言っていいでしょう。

コーギーが、せっかく前後のグリル/バンパー周りと一体で再現していたサイドモールのメッキ部品は、マクスウェルでは省略されてしまいました。コーギーはわざわざこのためにボディを上下分割していたようなものなので極めてもったいないのですが、その分マクスウェルは上下分割を活かして、ポリス/消防/タクシーともにツートーンを再現し、1色ボディの「ミルトン」製品に対するアドバンテージを産み出しました。




コーギーとの比較では、マクスウェルは細部の表現、成型状態など、あまりよろしいとは言えず、コーギー金型の譲渡を受けての生産品とは言えないことは明らかです。
マクスウェルは、アンテナも屋根上灯も省略されています。

コーギーではテールフィンのシャープなエッジの立った成型、曖昧にならないモールド、ホイルの処理など、まさに自信と貫禄が感じられます。仮に製品を複製しようとしても、そう簡単に同じ品質のものの量産はできない、ということでもあるのです。




マクスウェルの裏板側は文字刻印はありませんが、車台のフレームやアクスルを収容している凸部の処理がコーギーと酷似してしまいました。ボディそのものは実車形状をトレースして行けば似るのは当然ですが、こういうところが似ているということで、コーギーの影響を強く受けていることがバレてしまいます。

下のフロント・ビューでは、左がコーギー、右ガマクスウェルです。




上はインド製品同士、左がマクスウェル、右はミルトン。

全長では、マクスウェルがわずかにコーギーより小さくなっています。





ちなみに、左からミルトン(インド)/コーギー(1st)/コーギー(2nd)/マクスウェル(インド)/大盛屋ミクロペット・フリクションです。
全長的にはコーギーの2つが一番大きく、インド製ミルトンとマクスウェルがそれより小さく、大盛屋がさらに小さくなっています。ただし大盛屋のモールドの確かさは秀逸です。

実際にコーギーを「複製」した会社があったかどうかの詮索は別として、この時代に「インパラ」が、大変に未来的なフォルムを持ったクルマのシンボルであり、玩具としての魅力を持っていたということなのでしょう。


 #515 Lincoln Continental Ambulance Car from Maxwell Mini


リンカーン・コンチネンタルの「アンビュランス・カー」。
高級車の代名詞とも言うべきリンカーンに赤十字を貼り付けてしまう感覚にはちょっと驚きますが、わがトミカにもかつてキャデラックの赤十字車があったぐらいなので、あながち批判はできません。

貴重な金型を使っての色替えバリエーション・モデルですから、そんなことは言ってはいられなかった、という面が大きいのだと思います。

このモデルはマクスウェルとしては珍しい小スケールモデルで、「#505」でノーマル・セダン、「#513」でポリス、「#514」で消防指令車が作られました。ただしポリスと消防は同じような赤1色のモデルです。

パッケージは「ノーマル」「ポリス」「消防」「赤十字」みな共用、加えて「メルセデス1100」とも共用箱になっており、最初はてっきり違う商品が送られて来たのかと思いました。



小スケールのリンカーンということで思い当たるのは、マッチボックス・レギュラーホイル時代の「31C」
の金型(1964年初出)です。
意地悪く比較してみると、インパラ以上に似ていることがわかります。
ただしこれもレズニーからの譲渡金型で成型されたものではないでしょう。

マクスウェルはボディと裏板との馴染みが悪く、ホイルの処理も含めて車高がかなり高くなってしまいました。逆にマッチボックスは、サスペンションが経年変化で弱り、沈み過ぎているという好対照になっています。アメリカ車なのに、イギリス製/インド製ともに右ハンドルなのが面白いところ。








マクスウェルの裏板には、珍しくたくさんの文字が刻まれており、「MAXWELL PRODUCT LINCOLNCONTINENTAL MINI SUPERFAST」となっています。モールドが悪いために、上の画像ではほとんど読むことができません。プラのメッキパーツのように見えますが、実際は裏板もダイキャストです。

勢い余って「MINI SUPERFAST」と書いてしまったことで、マッチボックスを「参考にしている」ことがバレてしまいました。これだけでレズニーの商標を侵害する可能性が高いですから、全く余計なことをしたものです。ただしレズニーが「SUPERFAST」をインド国内でまで商標登録していたかどうかはわかりません。
パッケージもマッチボックスとほぼ同寸になっています。こういうところにもう少し注意を払うと、「コピー品」のそしりを受けないですむと思うのですが…。



 Hindustan Ambassdor Taxi from Centy Toys


ニューデリーに「センティ・トイズ」(Centy Toys/C-138, Mansarovar Garden, New Delhi 110015/)というメーカーがあり、現役でクルマのオモチャを作っています。
1990年創業の新しい会社ですが、それでも2010年で20周年を迎えることになります。

ニューデリーに生産拠点を2か所持ち、乗用車/ジープ類/バス〜トラック/オート3輪などの「ライト・コマーシャル・ヴィークル」、オートバイ/電車/飛行機など、幅広い商品ラインを持っています。
製品はダイキャストではなく、全てプラスチック製です。キャッチフレーズには「Quality toys for Kids」をうたっていて、安価・安全・高品質で、かつ「動く」オモチャの提供をポリシーにしています。大人対象のコレクション・アイテムというよりは、玩具メーカーに徹した姿勢です。
商品ラインは同社のサイト(centytoys@gmail.com)でご覧になれます。

1/32スケールのアンバサダーなど、大変に魅力的なモデルがあり、ニューデリーの同社宛に直接メールを打ったのですが、「商品の価格に対して、送料が大変割高になると思います。」という返信は来たものの、その後具体的な送料の金額や支払い方法を指示するメールが来なくなってしまいました。

センティからの直接入手は諦め、インドかイギリスのネットオークションにでも出る機会を待とうと思っていたところ、日本でインド雑貨を扱っている通販サイト(ラクダ隊商パインズクラブ/http://www.rakuten.co.jp/pinesclub/470295/)で偶然に発見し、入手することができました。


何と言っても魅力的なのはパッケージでしょう。
アルゼンチンのブービー後期や、ブルガリア製マッチボックスの初期のように、ブリスターはカードにホチキス留めされているだけです。この方式の良い点は、ブリスターを「破る」必要がなく、ホチキスの針だけをはずしてミニカーを取り出し、撮影が終わったら、またホチキス針を折り曲げて、元に戻しておれば良いのです!

カード裏面左上に「最大小売価格:62ルピー」の表示がありますが、物価を無視して単純にレート換算すると、120円ぐらいになります。センティ・トイが、「商品の価格に対して日本への送料が高くなってしまいます」と言って来たのもうなずけます。「最大小売価格」(Max Retail Price) は「M.R.P.」と略し、小売でこれ以上高く売ってはいけない、という価格の表示です。

「電池が要らない」「有害な原材料を使っていない」「危険なシャープ・エッジがない」「それでいてスケール・モデル!」というセールス・トークが見えます。
屋根の黄色部分を除いて、黒ボディの部分は塗装されていませんが、これも有害塗料のリスクを下げるための工夫でしょうか。



プルバック・トイでありながら、非常に端正なプロポーションを持っており、ヒンドスタン・アンバサダーのモデルとしては大変に秀逸と思います。

側面に「CNG」のマークを付けていますが、実はこれは「タクシー」の意味や、実車メーカーのエンブレムではなく、圧縮天然ガス(Compressed Natural Gas)を意味します。
インドの都市部では、排気ガスなどによる大気汚染が年々深刻化してきたため、、2001年にすべての商用車はCNG燃料を使用することが義務づけられたのです。これによって、バス/タクシーなどもすべて新規格の車両に切り替えられました。「CNG」マークは、この規制に適合した車輌であることを示しているのです。

トヨタも、トヨタ・キルロスカ・モーター(TKM)が、主力モデルであるカローラとミニバンタイプのイノーバのCNG車をインドで開発・販売しています。CNG燃料はニューデリーやムンバイで入手しやすく、さらにアーグラーやスーラトなど他都市に拡大しつつあるようです。
「電池が要らない」「有害な原材料を使っていない」という玩具製品での表示ともども、インドでは「エコ」への関心が高まっていることがうかがえます。



プラスチック製ですが、前ドアは開閉アクションを持ちます。ハンドルもインテリア一体となっているところが「エコ」な処理で、脱落や破損のリスクを抑えています。
裏板には社名/ブランド名/スケールが明記されます。



 CNG Auto Rickshaw from Centy Toys


同じく「センティ・トイズ」の製品で、インド市街の風物詩になっている「3輪タクシー」。
「オート・リキシャー」と言い、綴りは「Auto Rickshaw」(リックシャウ)ですが、明らかに日本語の力車(リキシャ)から来ている言葉でしょう。

「人力車」が人の曳くものであるのに対して、エンジンで曳くということで「オート・力車」としたものと思われます。ちなみに自転車で曳くものは「サイクル・リキシャー」と言うようです。


「アンバサダー」と同じ形式のパッケージ。これだと、インドの子供向けはもとより、観光客のお土産品としての需要も高いことでしょう。「最大小売価格」は、アンバサダーよりさらに安く、60ルピー(約115円)です。

カード裏面には実車写真があるため、ヘッドライトガードや後輪フェンデー部を金属線で追加したり、フロントガラスのピラー周りを加工するなどのディテールアップ工作をする、などという良からぬ考えがアタマをよぎります…。

スケールは明記されていませんし、実車スペックが無いので割り出せずにいますが、乗っている人形の大きさから考えて、1/24〜1/20ぐらいでしょうか。



このモデルも「CNG」マークを貼っていますが、CNG燃料規制はこういったオート・リキシャーにまで及ぶ徹底ぶりでした。
したがって商品名は「CNG オートリキシャー」になっていますが、「CNG」は燃料種別の表示で、実車メーカー名ではありません。
側面に付けている「Green India」のシンボルマークも、環境キャンペーンのものでしょう。




 Bajaj Auto Rickshaw from Satya Plastics


「センティ・トイズ」の2台と一緒に入手したもので、「CNG」燃料化される以前の古いタイプのオートリキシャー。
「センティ」の製品ではなく、「Satya」というメーカーのものです。マハトマ・ガンディーの哲学に出て来る「真理」(サティヤ)と同じ綴りのようです。





このパッケージも大変に魅力的で、ブリスターカード形式より保存にもコンパクトです。
「センティ」がニューデリーだったのに対して、この会社はムンバイ(旧ボンベイ)の所在です。
パッケージに「2004年10月」の文字が見えますが、2001年のCNG燃料規制以降も、オモチャとしては生き残っていたのでしょう。

「bajaj」は最後の「j」の後ろに母音が無く、これだと何と発音したらいいのか途方に暮れますが、「バジャイ・オート・リミテッド」という実車メーカーの名前のようです。インドネシアではオート・リキシャーのことを「バジャイ」と呼ぶ、という記事もありました。



CNG規制以前の車輌のため、「CNG」シンボルがありません。

人形が乗っていない分だけ、スケール・モデル感が高く、これも出色の出来と言えるのではないでしょうか。日本のオート三輪に似た雰囲気ですが、大変に機能的なカタチをしています。
このモデルだったら、欲しいという方もいらっしゃるのでは?
興味のある方は、前記「ラクダ隊商パインズクラブ」のサイト(http://www.rakuten.co.jp/pinesclub/470295/)をご覧ください。

ニッキー/ミルトン/マクスウェルなどの古いダイキャストを含めて、「MADE IN INDIA」を明記した製品に始めて出会いました。




センティのCNG車とのツーショット。スケールは同じぐらいに見えます。


 Hindustan Ambassdor Taxi from Min Toy


こちらはイギリス経由で入手した「ヒンドスタン・アンバサダー」の1/32モデル。
モデル全長はバンパーtoバンパーで132mm、アンバサダーの全長は4312mmという資料があるので、ほぼ正確に1/32になっています。

これもオール・プラスチック製で、プルバック・モーター付き。
上半身だけのドライバー人形の付いたトイ・カーですが、独特の雰囲気を持っています。
裏板には「MIN TOY」のモールドがあります。シンボルマークのモチーフはペンギンでしょうか。
当初ネット上で画像を見た時は、センティ製の別バージョンかと思ったのですが、実際届いてみると、センティとは完全に別金型でした。ドアは開閉しません。

「MIN TOY」で検索をかけても、それらしい情報が見当たらず、詳細は不明です。







センティ製(左/緑の線の入った方)との比較では、やはりセンティのプロポーションの良さが強調される結果になります。

下は左から、ミン・トイ/センティ/マクスウェル。
ラジエーター・グリルのパターンが異なっており、マクスウェルのものが年式が古いのでしょう。



 CNG Auto Rickshaw from Shinsei


アンバサダーと同じ荷物で、イギリスから入手したオート・リキシャー。

イギリス在住の出品者は「1/24」としていましたが、センティのものよりかなり大きく、人形のサイズから言うと、1/20〜1/18ぐらいあるのではないでしょうか。
最近、少しコレクションのカサを減らす努力をしているところなのに、またこのような大柄なモデルのバリエーションが増殖してしまいました。タイやインドネシアなどの3輪タクシー収集に発展しないように、注意しなければいけません。

下は、センティ(右側)との大きさ比較。これも画像で見た時にはセンティと同じモデルかと思いましたが、サイズからして全く違うモデルでした。



室内の料金メーターや、「I LOVE MY INDIA」のキャッチフレーズなどを含めて、細かいシール貼りがされています。これもセンティ同様に、CNG燃料化されて以降の車輌です。

メーターはあるものの、この「オート・リキシャー」では料金は交渉制なのだそうです。
振動が激しいので、旅行ガイドブックには、「1日中乗っていてはいけない」と書かれています。




実はこのモデル、裏面には「SHINSEI」のブランドマークがあってびっくり。
かつて1970年代の半ばに「ミニパワー」などを生産した日本の「新正工業」と同じシンボルマークです。

シンセイは、トラックのシリーズなどをかなり欧・米には輸出したようですが、このプラスチック製のモデルも日本から輸出されたものか、あるいはインドの工場で作られたものか、いつ頃の年代のものか、パッケージも失われているので定かではありません。
インド製ミニカーを探していて、思わぬ発見をすることになりました。



 CNG Auto Rickshaw from Min Toy


屋根上ラック付きの「ヒンドスタン・アンバサダー」を作っている「ミン・トイ」製の「CNGオート・リキシャー」を入手。
大きさは「シンセイ」のものより一回り小さく、「センティ・トイズ」のものと丁度同じぐらい。
ただし、金型的にはセンティとは別のもののようです。たくさんのブランドがこの「CNGオート・リキシャー」のオモチャを生産・供給して来たことがわかります。

左から「シンセイ」、「センティ」、「ミン・トイ」。
しかしいまさら気づいたのですが、インドでのCNG規制は2001年ですから、「シンセイ」製のモデルが「CNG」マークを付けているということは、少なくとも2001年以降の製造ということになるわけで、日本ではとうの昔にミニカー生産をやめていまっている「シンセイ」ブランドが、思わぬところで生き続けていることになるわけです。





裏板には「ミン・トイ」のペンギンのマーク。
このモデルにもドライバー人形が入ります。
この種の大きなサイズのモデルはこれで打ち止めにしたいですが、NHK-BSでやっていた「ガンディー」の映画を見てしまい、引き続きインドの不思議な魅力に抗えなくなっているこの頃です。




 ネットオークションでの出品が意外に少ない古いインド製ミニカー

ところで海外のネットオークションで、インド製の古いミニカーが出品される点数は極めて少数です。
アルゼンチンについては、プロのショップを含めて相当数の出品者と出品がありますが、ブラジルは少数、インドはさらに少なく、特にインドからの出品というものはほとんどありません。

アメリカだけでなく、イギリスを見てもこの状況に変わりはありません。
インドにはホットホィールを生産し、マテル傘下になった「LEO」というブランドがあるため、ミニカーやトイのカテゴリーで「インド」をヒットしてもその多くがインド版・ホットホィールです。なかなか高価で、触手の動くものがないために購入には至っていません。

さらに「eBay・インド」を見ても、これも現在の子供向け玩具とホットホィールなどが主体で、「ニッキー」「ミルトン」「マクスウェル」時代のダイキャストは全くと言っていいほど見当たりません。
インドには「センティ・トイ」(Centy Toys)など、プルバック動力のトイ・カーを作っている現役のメーカーもあるのですが、何故かそうしたアイテムすら見当たりません。「TAXI」で検索すると、人を乗せる「ゾウ」のタクシーの置物をヒットしたりします。

したがって、ここからは推測になりますが、

-ニッキー/ミルトン/マクスウェル時代のインド製ミニカーは、コレクター向けに輸出され、
 インド国内での販売量が意外に少ない
-インド国内での流通量がそれほど無かった割に大半が子供の玩具として扱われたため、
 現存数が少ない
-ニッキー/ミルトン/マクスウェルのかつての購入層と、現在インドでネットオークションなどに
 関与している層とが一致していない

といったことが考えられるのではないでしょうか。つまりインド製ミニカーがインド国内にたくさん残っていると考えるのは誤りで、「オキュパイド・ジャパン」の日本製ブリキ玩具のように、現在コレクター間を流通しているのは、海外に輸出された分と考えるのが順当のようです。
英国の会場オークションなどに出て来るのは、英国のディンキー・コレクターによる収蔵品だったものなのでしょう。



eBay公認の日本語サイトであるセカイモン(sekaimon)については別ページでご紹介してきましたが、このサイトは英語と日本語の両方で検索がかけられるのも特長です。私の知る限りこういう機能を持ったサイトは他にないような気がします。
日本のオークションサイトでは、ホットホィールなどを除けば出品者は日本語でタイトルを付けていますから、英語での検索というのは使えません。同様にeBay上では(文字化けこそしなくなりましたが)、もちろん日本語での検索は通用しません。

例えば日本語サイト内で「インド」で検索をかけると、「ウインド」「インドネシア」「インドア」「ブラインド」など、「インド」の文字列を含むものを全部拾ってしまって絞り込みがむずかしいのですが、バイリンガルである「セカイモン」では英語の「India」にシフトすると意味的に的を絞った検索をかけることができます。もともとのeBay上での英語タイトルと、それが翻訳された日本語タイトルの両方を検索対象にしているからでしょう。(ただし形容詞の「Indian」にすると「先住アメリカ民族」系のアイテムを拾ってしまいます。)

また検索結果は、カテゴリーに分かれた形で表示されます。「ヤフーオークション」で「すべてのオークション」を対象に検索をかけると、検索結果は全体の集合になっているだけで全くカテゴライズされませんので、この点も大きな違いです。

入札・購入を考えない場合でも、海外での新製品の発売状況や、市場での流通状況、価格などを調べるための情報源としても活用できるのではないかと思います。





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