Nostalgic Patrol Cars Season 2

ニュルンベルクのブリキ救急車(2)


Die Krankenwagen aus zweimal Blechspielzeugmacher in Nu"rnberg





 「探し物」に関する後日談



「ニュルンベルクのブリキ救急車」をアップしたのが2007年の4月。
かれこれ1年になろうとしていますが、何点かの追加のモデルを入手しました。

大体において、この種のテーマはモデル探しに息切れがしてしまい、そのうちに主たる関心事が他に移ったりして、そのままになってしまいがちなのですが、今回は「続編」と言うべきモデルを手に入れることに成功しました。理由は簡単で、「東ドイツの救急車」を探そうとしてドイツ/オーストリア/スイスのネットオークションで検索をかけまくっているうちに、これら「西ドイツ」製のモデルを「偶然に」ヒットしてしまったのです。

これらのモデルが思うように手に入らないが故に、「東ドイツの救急車」などという極めて「辺鄙」にしてマイナーなテーマに移行していた、ということでもあるわけですが、『探している時には見つからず、探していない時にひょっこり現われる』のがコレクションにおける「探しもの」の常なのかもしれません。
(2008/2/16)


ガマ(U.S.Zone Germany)赤十字トラック
DRK Lastkraftwagen, GAMA, U.S.Zone Germany



全長約217mmぐらいのブリキの赤十字トラックで、裏板には「GAMA U.S.ZONE GERMANY」のプレスがあります。前回の「ニュルンベルクのブリキ救急車」本編では、シュコーの「U.S.ZONE GERMANY」をご紹介したのでしたが、ガマにも同時代の製品がありました。

ガマ(ゲオルク・アダーム・マンゴールト/Georg Adam Mangold、GAMAはその頭文字)は、1882年の創業で、1910年創業のCKO(ゲオルク・ケラーマン・ウント・コンパニー/Georg KELLERMANN &Co)、1912年創業のシュコー(シュライヤー・ウント・コンパニー/SCHREYER & COとして創業、SCHUCOはその頭文字)よりもはるかに古い会社ですから、米軍占領下での製品があっても何の不思議もないことになります。1947年から1952年ぐらいの間での製品ということになります。




私はこの手の古いブリキ・モデルに関する体系的な知識や資料を持っているわけでも何でもなく、現物がネットオークションに出ているのを見て、はじめて存在を知りました。ブリキ製玩具の書籍、というのはある程度見つけることができますが、その中でも救急車のモデルというのは、1冊に1台見出すことが出来れば良い方です。

サイズ的には1/30ぐらいの感じで、私のコレクション対象としては大きすぎるのですが、丸っこいキャブの曲線と、黄色に近いクリームの塗色が完全に私好みなので、ここは是非とも入手することにしました。

このモデルのプロトタイプが何か、ということになりますが、1947〜1952年頃のドイツということになると、自ずと対象は限られるはずで、フォードFKの3500/オペル・ブリッツの1.75トン/ハノマークのL28あたりからインスピレーションを受けつつ、グリルのデザインなどは特定の実車にワザと似ないようにしている可能性もあると思われます。「U.S.ZONE GERMANY」としてはギリギリの1952年に限りなく近い年式という気がします。いずれにしても、輸出先である米国車ではなく、ドイツ車だと思うのですが、いかがでしょう。




リアゲートはブリキながら、開閉可能。同じくブリキ製のストレッチャー(担架)が付属しており、包帯を巻かれたクランケ(患者)人形付き。人形は、いわゆる「コンポジション」製の、粘土〜石膏を固めたような素材で出来ています。画像に写っている白いゴムは私が付け加えたものですが、担架に穴が開いていることから、オリジナルでもヒモかゴムを通して人形を固定してあったものと思います。

後輪にはフリクション動力が入り、現在でも作動します。当時としては「高級玩具」に入る部類のモデルだったのではないでしょうか。



シュコー1003・「ミラコ・ザニ」
Schuco 1003 MIRAKO-SANI



「ニュルンベルクのブリキ救急車」本編で、シュコー・「バリアント」シリーズの「ザニ」(No.3043)をご紹介した際に、もうひとつ「1003」番で「MIRAKO-SANI」(ミラコ・ザニ)というモデルがある、ということを書いたのですが、この「ミラコ・ザニ」も思いがけず手に入手することができました。





「ザニ」と「ミラコ・ザニ」の違いは、裏板メカとフロントマスクだけかと思っていましたが、冷静に見て行くと、ゼンマイキー差込位置、「ザニ」用の変則レバーや、ステアリング・ケーブル差込口の有無に加えて、窓類の角のアールなどが微妙に異なっていて、別型でプレスしていることが明らかです。



左が「ミラコ・ザニ」、右が「ザニ」。
ゼンマイキーはクルマとは別途に入手したものなので、どちらがどちら用のもの、ということではありません。差し込み径は同じなので、共用することができます。



屋根上にステアリング用のケーブルを付けると、車体裏面前部のプーリ型ホイルがステアリングするのが「ザニ」(車体裏面画像の上、ただし左が車体前部)、後輪側に小さな横向きホイルがあるのが「ミラコ・ザニ」(画像下、ただし右が車体前部)です。
「ミラコ・ザニ」の方も、「MADE IN US-ZONE GERMANY」のプレスがあります。したがってこれらも、1947年から1952年ぐらいの間での製品ということになります。

「ザニ」が後輪にゴム・タイヤを履いているのに対して、「ミラコ・ザニ」は4輪とも金属ホイルです。
「ミラコ・ザニ」のゼンマイを巻いて、テーブルの上に置いてみると、前輪はステアリングしないにもかかわらず、動力の入った後輪寄りに設定された横向きホイルのために、ゼンマイの力の強い最初は大きな円を描いて走り、だんだん小さな円を描く、という動きをします。

実は当初から設定された動きをしているのかどうか、良くわからないのですが、いずれにしても50〜60年近くも経ったオモチャが動く、ということ自体が奇跡的(mirakulo"s/ミラクレース)だと言えるでしょうか。


CKO(ゲオルク・ケラーマン)#402 VW Typ T1 救急車
CKO(Georg Kellermann & Co.) Art.-Nr.402 VW Typ T1 Krankenwagen



次はCKO・「402」番のVW-T1救急車のバリエーションです。
ルートヴィヒスハーフェンのリューディガー・クラウスという人からCKO製の最初のVW-T1をようやく入手し、その時にフロントバンパーやテールランプのバリエーションがあることを知って愕然とした顛末は、「ニュルンベルクのブリキ救急車」前回本編のところでご紹介しています。

これらのパリエーションを短期間で発見・入手する目途は到底立たなかったため、リューディガー・クラウスが送ってくれた画像を当サイト上にアップする許可をもらうとともに、『もしバリエーションが見つかったら知らせてくれ !』という依頼をしたのでした。

しかしブリキに薀蓄のあるらしい、さしものドイツ人(バンダイ製VW-T1救急車は持っているか、と聞いてきた)も、「バンパー切り欠きあり/なし」などというバリエーションの捜索は簡単ではなかったのか、結局その後VW-T1に関する知らせはありませんでした。



前バンパーに「切り欠き」の無いタイプをめでたく入手。
右のモデルは、少し上下にツブれています。


このバリエーション探しには、いくつかの困難がありました。

後年のT2の救急車、KOVAPによるそのレプリカならばいざしらず、さすがに本国ドイツのオークションサイトであっても、このT1救急車は、そう、いつでもゴロゴロと出品されているというわけではない。

前バンパー切り欠きあり・テールランプ小は既に入手。したがってT1救急車なら何でも飛びつく、というわけには行かず、バンパー/テールランプを確認してからでないと入札できない。

多くの場合、オークション用画像は側面とか、ナナメ前とかからのアングルで撮ったものが多く、肝心のバンパーとテールランプがわかる正面/後面のキチンとした画像をアップしているものが少ない。

フロントパンパーの「切り欠きあり/なし」は、画像の上では誠にビミョーで、正面写真がアップされているにもかかわらず、ピンポケで判別できない! などということがある。

裏板を撮った画像がアップされていることが多いが、実は裏板は全部同じである…。

この手の古いモデルは、出品者が専門店やブリキ専門コレクターではない場合が多く、アンティーク・ショップやリサイクル・ショップだったりするため、「前のバンパーに切り欠きはあるか?」「テールランプは楕円型か?」などという、あまりにも偏執狂的な質問をしても、正確な回答がかえって来るかどうか、極めて疑問である。ヘンな日本人が、おかしなことを言って来ている、としか思われない可能性が高い…。

どうやら「パンパー切り欠きなし」タイプらしい、という確信が持てると、今度は『ドイツ国内にしか発送しません・支払いは銀行振り込み』という条件的ハードルがある…。

これではいつまで経ってもバリエーション収集に到達しないので、実は途中で方針転換したのですね。
クレジットカードやPayPalによるオンライン決済を諦め、『速達便でユーロ現金を送ったら、譲ってくれるか』という交渉をすることにしたのです。



既に入手していた「バンパー切り欠きあり」(左)との比較。
せめてこれぐらいの画像が見れれば違いが判断できるのですが。
「切り欠きなし」(右)も、中央部がビミョーに平らに見えたリするのです。




「前バンパー切り欠きなし」のうち、最後期モデル(左)は、テールランプが楕円型の大きなものに
なります。これで側面窓の小さなタイプのバリエーション3種をクリア。


ここで、ドイツのネットオークションでの、PayPalやクレジットカード以外の支払い方法について、ちょっとふれておきましょう。
「Zahlungsmethode」(ツァールングス・メトーデ)という項目が、「Payment method」つまり支払い方法にあたります。「U"berweisung」(イーバー・ヴァイズング)とあれば「振込み送金」、「Nachnahme」(ナッハナーメ)は「代金引換」です。

ドイツの場合、振込み送金先には2種類あります。ドイツにも銀行と「郵貯銀行」があるからです。
商品を落札するとインヴォイス(この場合は「送り状」というよりも「請求書」)が送られて来ますが、「Postbank Leipzig」(ポストバンク・ライプツィヒ)、「Postbank Berlin」(ポストバンク・ベルリン)などと表記されているのが、「ポストバンク」つまりドイツにおける「郵貯銀行」です。「Kto」は「 Konto」(コント)の略で口座番号(9桁の数字)、「BLZ」は「Bankleitzahl」(バンクライトツァール)で店番略号(8桁の数字)です。

一方「IBAN」「BIC」で示されるのは銀行口座です。IBANコード(International Bank Account Number)は、銀行口座について、所在国/支店/口座番号を特定するための国際標準で、SWIFT(TheSociety for Worldwide Interbank Financial Telecommunication/国際銀行間通信協会)によって登録されたものです。「BIC」コードは「スウィフト・コード」とも言われ、海外の銀行からなど、金融機関間への国際送金に使われる金融機関識別コードです。日本の銀行もこのスウィフト・コードを持っています。例えば横浜銀行だと「0138 HAMAJPJT」。



古い玩具の面白いところで、裏板の前後が入れ替わっています。

これはバリエーションではなく、左のモデルで装着が逆になっているのです。

ということは、裏板は違うモデルのものが付け替えられている可能性もあります。


現時点での私の理解では、インターネットバンキング経由で、海外の銀行口座に送金はできません。新聞広告などで見かけたような気がする某コーポレート銀の「グローバル宣言」などというものは、少なくとも個人顧客には恩恵をもたらしていないことになります。

日本の銀行の窓口から海外の銀行口座に送金をすることはできるのですが、ある銀行では「海外送金手数料」として4,000円(送金銀行の海外支店・連携銀行宛なら3,500円)、 加えて「関係銀行手数料」(送金の中継銀行、受取銀行で発生する手数料)が2,500円だと書いてあります。
さらに「円」を送金する場合は「円為替取扱手数料」として送金金額の0.05%・最低2,500円、または外貨を送る場合には「リフティングチャージ」として送金金額の0.05%・最低2,500円・または25USドルが必要だとしています。あまりに恐ろしいので、私は利用したことがありませんが、これはもしかすると、計9,000円(2,500円+2,500円+4,000円)の手数料が必要、というように読めます。
在外の日本人に対してならともかく、ドイツ人に「円」を送っても仕方がありませんから、外貨預金口座を持つか、または円から外貨への両替もしなければなりません。

ゆうちょ銀行からも、「国際送金」が出来ます。「口座間送金」と言って、ゆうちょ銀行の口座から海外の銀行口座・郵便振替口座への送金ができ、ドイツへはこの両方が出来ますが、問題は手数料が2,500円、というところでしょうか。口座間ではなく、国際送金取り扱い郵便局で現金を支払う形式のもの(同じく手数料は2,500円)、また為替証書を相手の住所に送付する「住所あて送金」というものもありますが、「住所あて送金」はドイツへの扱いがありません。

ところがユーロ現金を銀行または取り扱い郵便局で買い、EMS(国際スピード郵便)文書用で送ると、送料1500円で送ることができ、保証もつけられる、追跡サービスも利用できる、というわけなのです。
物品用と違って、相手国の税関で止められないようなので、平均3日程度で相手先に届いていました。
(ユーロなどの外貨が買える郵便局は限られているので、事前にご確認ください。)

また、現金での送付を受け入れてくれるかどうかを、事前に支払い相手にご確認ください。私の感触では、現金の送付は大変に好意的でした。クレジットカードなどよりもよほど早く現金化できるためと思われます。また1ユーロ未満の端数は両替できないので、多少多めに送金することになる点も、好意的に対応してもらえる原因かもしれません。(外貨両替扱いのある郵便局では、紙幣の準備(在庫)さえあれば、1ユーロ札であっても入手可能とのことでした。ただし銀行の外貨自動販売機で買う、封筒入りの「外貨セット」では、最小額面が5ユーロ札の場合があります。)

実はこれらのVW T1の出品者のひとりは、取引後に、『ゼム・クリップの製造機を日本でも売りたいと考えている。クライアントを紹介してくれるなら、15%フィーを払う』なんて、言って来ました。それも南部方言の混じった話体のドイツ語で、当初何を言って来たのかサッパリわからずに困惑しました。
つまり、現金を送るということの信頼度は、なかなかに高いようなのです…。




側面窓の大きなタイプもようやく発見して入手。この、窓の大きなタイプで助手席ドアの文字プリントのないものを入手すれば5種コンプリですが、これはかなりむずかしそうです…。

ところでこのモデルの出品者は、タイトルに「1930年頃のもの」という表記をしていました。よほど古い玩具に見えたのでしょうか。1930年代に確かにCKO社は存在していますが、そもそも戦前にはVWにトランスポルターT1がありません。ドイツ人がそんなことを言ってもらっては困ります。

「VWの救急車」のところで、「VWはドイツ国民(フォルクス)に貢献しただろうか」、ということを書いたの

ですが、ヴィクトール・クレムペラーという人の本の中で、明快に次の記述を見つけました。

『夢を約束するフォルクスワーゲンとして小市民たちからお金をおびき寄せたものは実は初めから軍用車として計画されていたものなのである。』
(第三帝国の言語─ある言語学者のノート/羽田・藤平・赤井・中村訳/法政大学出版局・p117)





側面窓の大きなタイプは、リアゲートにも窓が開いており、テールランプには赤ペイントが入ります。



側面窓の大きなタイプ(右)も、小さなタイプ(左)も、どうやら裏板は同じもののようです。
「CKO」マークの下にプレスされている「D.B.G.M.」 は、「Deutsches Bundes-Gebrauchsmuster」(ドイチェス・ブンデス・ゲブラウヒスムスター)で、「連邦登録意匠・実用新案」を意味します。ただし製品が実用新案にあたるということではなくて、この場合は、「CKO」マークが登録商標だと言っているものと思います。


ガマ No.446・VW LT-35 救急車(ダイキャスト・1/35)
GAMA #446 VW LT-35 Krankeneagen 1/35



以前にCKOのVW-T1を買い、他のバリエーション探しを頼んでいたルートヴィヒスハーフェンのリューディガー・クラウスが、その後唯一知らせて来てくれたモデル。
VW-T1ではありませんでしたが、ガマ製の救急車で、「レア」だということでした。

製品としての時代はずっと下り、ブリキではなくてダイキャストです。1/35のスケールをうたっており、かなり無骨で大きなモデル。救急車でない、ノーマルタイプのバンのモデルもあるようです。

「GAMA」は1971年に「TRIX」に統合されて「トリックス-マンゴールト(TRIX-MANGOLD(GAMA))」となりますが、一方で実車のLT35の生産期間は1975年から1986年ですから、「TRIX」との統合後でなければLT35のモデルは作れないことになります。馴染みのあるガマのスケールや作風とは少し違う感じがするのは、そのせいなのかもしれません。


VW-LTには「LT 28」「LT 31」「LT 35」「LT 40」「LT 55」がありますが、「LT」の後ろに付くのは重さで、「LT35」は3.5トン・タイプ、ということです。






リアゲート裏側に、モデルの品番である「446」のモールドがあることがわかります。

今となっては「WESTERN GERMANY」という表記も、「U.S.ZONE GERMANY」同様に、ドイツの歴史の上で発生した表示のひとつになってしまいました。


ところで、「東ドイツの救急車」のところでお話した「オスタルギー」現象の流れのひとつと考えられる、『グッバイ・レーニン』というドイツ映画を見たのですが、これがウイットにとんでいて、なかなか秀逸でした。毎日毎日依存していた価値観がガラガラと崩壊してしまうことの動揺感がよく伝わって来て、戦争に負けるとか、「国家」がなくなる、というのはこういうことなんだろうな、と思わせてくれます。
レンタルでも出ていますので、ご興味のある方はご覧になってみてください。バルカスの救急車も走りまわっていますし、フォルクス・ポリツァイの車両もデモ隊鎮圧に登場します…。

また、「チェコの救急車」としてご紹介した1/20ぐらいのプラスチック製シュコダ1203の製造元が「KOVODRUZSTVO Nachod」というところで、これがCKOのレプリカを作っている「KOVAP」社の前身らしいこともわかりました。これらのお話は、また別の機会にさせていただきたいと思います。


     




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