レズニー・マッチボックスが、最初に作ったポリスカーは、英国車のポリスカーではなく、1963年の「フォード・フェアレーン」(55B)でした。 以来、このレギュラー・シリーズの55番は、ポリスカーの指定席となり、1966年には「フォード・ギャラクシー」(55C)、1968年には「マーキュリー」(55D)のポリスカーが作られることになります。 マーキュリーのポリスカーは、1970年にそのままスーパーファスト・ホイルに履き替えて「MB55-A」に、1971年にはステーションワゴン車型の「マーキュリー・コミューター」(MB55-B)になります。 そして1984年の「フォードLTD」(MB16E)、1997年の「クラウン・ヴィクトリア」(MB54-K)、2006年の「クラウン・ヴィクトリア」(MB26-N)とつながっていくことになります。2011年には、フォード・ポリス・インターセプター(MB49-L)を加えました。 つまりマッチボックスは、フォードのポリスカーの歴史を丹念に追って来ており、バリエーションを含めたその数は膨大なものになります。もちろんマッチボックスは、シェビー、プリマス、ダッジのポリスカーも作っていますが、やはり「フォード」に厚い、という印象は逃れません。 「クラウン・ヴィクトリア」のバリエーションをもう1回整理して掲載するという気持も持っているのですが、今回は、マッチボックス以外のモデルも加えて、3インチ・サイズのモデルで「フォードのポリカーの歴史」を構成してみようと思い立ちました。 マッチボックスのバリエーションによるフォード・フリートを基盤に、レーシング・チャンピオンズやジョニー・ライトニングによる1940〜1960年代のモデルを加えることで、フォード・ポリスカーの流れを体系的に再現できるように思ったためです。 こうした、歴史的なタテの流れを追ってみようというのは、当サイトとしても初の試みです。 個人的には、フォードのポリスカーを拾い出して整理する、良いきっかけになりました。(2016/7/23) この項をつくる動機となっている資料本。 Ford Police Cars 1932-1997 Edwin J.Sanow, Foreword by Bob Bondurant, Motorbooks International, 1997 フォードのポリスカーの歴史を、ふんだんな実車写真をまじえて解説しています。 実車写真は、基本的にレストア車ではなく、それぞれの時代での就役中の姿です。 「1932年」という年には意味があって、これは後ほどふれますが、フォードがV8エンジンを導入した年なのです。 「シボレー」「ダッジ」などでも、同種の本が出ています。モデルカーばかりでなく、実車を収集・保存しようとする人たちもいて、アメリカでのこの種の趣味の層の厚さを見せつけられます。 ※イギリス・フォード、ドイツ・フォードなどのクルマは、含まずに進めます。 また米国フォード車でも、トラック、ピックアップ、バンなどはこれも含めずにご紹介していこうと思います。 1920年代まで T型フォードは、1908年に発売された初の量産車であることは言うまでもありません。 T型フォードが普及していくにつれ、一般の市民だけでなく、警察でもこのクルマに注目するようになりました。 1900年代のはじめには、警察は既にオートバイを使用しており、警察にとって4輪の自動車の最初の用途は、パトロールではなくて、人員の輸送と逮捕・拘留者の護送でした。つまり馬車のパディ・ワゴンに代わるものだったわけです。 1913年から1927年のT型フォードは、4気筒フラットヘッド、177ci・20馬力のエンジンを持っていました。T型フォードは、1908年から1927まで、基本的にはモデル・チェンジを受けていないのです。 「フラットヘッド」は、サイドバルブ式、つまりバルブがシリンダーの上ではなく、横についているので、上部はフラットになっている、ということです。 「ci」は「立方インチ」で、1立方インチ=は16.38706cc、177ciでは2900.510ccになります。3000ccですね。この「立方インチ」は、アメリカのポリス・パッケージの資料を見ていく上では結構重要になります。 つまり「フォード」の前に「ポリスカー」はない、ということになるわけです。 そして人員と逮捕・拘留者の輸送に4輪車を使っている限りは、容疑車輛を追跡するために大馬力のエンジンが必要になることもなかったのです。 上は、レド(Lledo)製プロモーショナル・モデルで、1983年の「モデルTフォード・バン」と1989年の「1920・モデルTフォード」。 両方とも、英国ポリスのメモリアル・モデルですが、英国でもT型フォードを警察車両として使用しています。 特に「バン」の方は、パトロールが目的でない、パディ・ワゴン(護送車)であることが、車型からもうかがえます。 側面に「1936」のプリントがありますが、これは特注品としておそらく創立年を記したもので、1938年にT型フォードを使っていた、ということでは必ずしもありません。 レドのモデルは、プロモーショナルということもあって、たくさんのバリエーションがありますが、日本ではあまり人気がないようです。 1920年代には、全米の警察は自動車でのパトロールを実施するようになります。この時点では大半の車両が4気筒車でした。州警察でも177ci・4気筒フラットヘッドのT型フォードを警邏目的で使用するようになります。 1930年代 上は、これもレド「デイズ・ゴーン」、1990年の「1930・モデルAフォード・パネルバン」。 「デイズゴーン」の通常品、「チーフ・オブ・ポリスUSA」として製品化されたものです。マーキングの考証の精度までは問えないでしょうが、なかなかいい雰囲気を持っています。少しポリスカーらしくなって来ました。 1930年代では、州警察で「ハイウェイ・パトロール」が組織されるようになり、カリフォルニアでは200ci(3300cc)・4気筒フラットヘッド・40馬力のA型フォード・クーペを使っていました。 ところが1920年から1933年まで、合衆国では禁酒法が施行されました。消費のためのアルコールの製造、販売、輸送が全面的に禁止されたのです。酒類の密造・密売の取締りのために、4気筒車では警察業務の遂行に支障が出るようになります。 1929年にはシボレーがオーバーヘッド・バルブの6気筒車を導入。フォードはこれに対抗して1932年にフラットヘッドV8エンジンを搭載し、多くの警察官の支持を獲得するようになります。 同じくレド「デイズ・ゴーン」、「モデルAフォード・ツーリングカー」。 年代は特定されていませんが、「1930・パネルバン」と、ボディを共用しています。 こういうフェートンの車型では護送車には使えませんから、パトロール、または指揮用ということになります。 「Metropolitan Police」は、アメリカではなく、英国ポリスでしょう。プロモーショナル・モデル(特注品)として作られたものです。 上は、1932年のフォード・クーペ。ニュージャージー州警察。 「レーシング・チャンピオンズ」の「ポリスUSA」というシリーズのもので、1998年頃に、単なる乗用車ミニカーの色替えバリエーションではなく、年代的にも貴重なポリス・モデルを系統的にモデル化していました。現在でもアメリカのネットオークション上ではデッドストックが結構流通しています。私は発売当時に日本国内の家電量販店のホビーコーナーで入手しました。 シリーズ初期の製品は、1種類ずつ固有の車名、マーキングになっている警察名の印刷されたカードにパッケージされていて、スケール表示も印刷されていました。このモデルのスケールは1/54です。後期になるとカードは共用のものになりました。 わざわざ「1932年式」とことわっていて、V8エンジン搭載車をモデル化しています。この「'32」という年式には、そういう意味があるわけです。モデルは、わざわざエンジンカバーをはずして、エンジンを見られるようになっていますが、つまりこれが一時代を画するV8エンジンです。 この時代は、ポリスカー用に、「特別に」V8エンジン搭載車が作られた、ということではなく、市販車としてV8搭載車が作られ、それを警察が導入していました。 1940年代 1940年代では、V8搭載車がスタンダードになります。 上は「レーシング・チャンピオンズ」の「1940・フォード・クーペ」、ノースカロライナ・ハイウェイ・パトロール。ノースカロライナでのステート・ハイウェイ・パトロールの設立は1929年です。 上は「1940・フォード・デリバリー」。ワシントン州警察(左)と、シカゴ市警(右)。 このモデルも、V8エンジンが見られるようになっています。 上は、ホットホィール製の、「1940・フォード・チューダー(Tudor)」。 2000年のLAPD(ロス市警)特注モデルです。 裏板もメタルの重厚なモデルで、完全なスケールモデルになっています。ホットホィールは、たまに、こういう妙にマジメなモデルを作ります。 85馬力・フラットヘッドV8エンジンを積んでおり、市警レベルだけではなくハイウェイ・パトロールで使われました。 第2次世界大戦が終わり、つまりフォードにとっては軍のための車輛・兵器の生産が縮小されて、民生用のマーケットの再確立の必要が生じるわけですが、警察車両の市場はその中でも重要なものであり、警察車両の近代化が急速に進むことになります。 上はレーシング・チャンピオンズ「1949・マーキュリー・セダン」。スケールは1/55です。 オクラホマと、カリフォルニアのハイウェイ・パトロール。 カリフォルニアでのハイウェイ・パトロールの設立も1929年、オクラホマでは1937年でした。州内の道路事情・交通事情によって、各州でのハイウェイ・パトロールの設立年には差があります。 こちらはフロリダのハイウェイ・パトロール。設立は1939年。 「ポリスカーで2ドア車は不自然」と思われる方があるかもしれませんが、2ドア車はたくさん使われています。 「マーキュリー」は、GMの多ブランド戦略に対抗するべく「フォード」と「リンカーン」の間を埋めるものとして1938年から投入されていた中級車で、排気量を拡大したV8エンジンを「ウリ」にしていました。 1950年代 警察車輛市場でのフォードの地位の確立を牽引したのが、1950年のフォードでした。大きなものを含む装備・器材を収容できる十分なトランクルームのスペース、無線機を運用できるバッテリーやエンジンの余裕、高い燃費効率などを実現していて、フォードは警察車両の主要なプレーヤーとしての地位を確立しました。 この頃ニューヨーク市警は一度に430台のフォード・ポリスカーを導入しています。 「レーシング・チャンピオンズ」の「1950・フォード・クーペ」、ケンタッキー州警察(左)、ミシガン州警察(右)。 スケールは1/58です。1/64に比べれば大きめですが、そのためボンネット開閉アクションがあり、裏板もダイキャストなので、適度な重量感と精密感があります。50年代のクルマのモデルとしての貫録を持っていて、現在の裏板プラスチックのミニカーに比べれば、はるかに好感が持てます。 グリーンの入った面白い塗り分けで、左はメリーランド州警察、左はニューヨーク市警(NYPD)の旧塗装です。 「PCT.」は、NYPDの「分署」(precinct)の意味です。 屋根上灯やサイレンの形状、位置など、ひとつひとつ変えていることがわかります。 ボディ下半分を白に塗っているのは、ネバダ・ハイウェイ・パトロール。後席との間にメッシュ・ガードが入っているなど、ポリスカー装備を再現した凝ったツクリです。 前述したように、T型フォード以来1950年の声を聴くまで、ポリスカーは常に「市販車」を使用して来ていて、特別な警察仕様車というものは作られていませんでした。1932年のV8エンジンも、警察車専用にV8エンジンが用意された、ということではなく、V8エンジン搭載の市販車が市場に導入された、ということだったのです。 ところが1950年代になると、本格的な警察仕様車が用意されるようになりました。単にエンジンだけでなく、ヘビー・デューティーのブレーキ、サスペンション、無線機や警光燈のためのバッテリーの強化、などが含まれます。これを「ポリス・パッケージ」と言います。フォードはこれを1950年から導入しました。 1950年〜53年の時期のフォード・ポリス・パッケージのエンジンは、215ci(3500cc)・オーバーヘッド6気筒と、239ci(3900cc)・フラットヘッドV8の2つです。 1950年代から、1960年代のはじめにかけて、フォードは非常に多くのフルサイズ、およびミッドサイズの車両を生産し、そのネーミングは現在の我々にとってはかなりの混乱を招くものになっています。 上は「レーシング・チャンピオンズ」の「1956・フォード・ヴィクトリア」。 右の白ドアはネブラスカ州警察。左の黒1色は、カリフォルニアのサクラメント市警。スケールは1/60です。 裏板のモールドは「ヴィクトリア」になっていますが、実はこのクルマは、「フェアレーン」なのです。 これが「ネーミングの混乱」の典型でしょう。 白はコロラド州警察、グリーンはイリノイ州・ハーウッド・ハイツ市警。 白黒塗装とはだいぶ印象が変わります。むしろこのクルマには明るい色の方が似合うようです。 「フェアレーン」が登場したのは1955年で、フルサイズ・カーの基幹モデルとして、それまでの「クレストライン」に置き換えられました。ところが1955年〜1956年の第1世代では、6つの異なったボディが用意され、通常のセダン2種、「ヴィクトリア・クーペ」、「クラウン・ヴィクトリア・クーペ」、コンバーチブルの「サンライナー」、透明プラスチックのルーフを持った「クラウン・ヴィクトリア・スカイライナー」がありました。 「ヴィクトリア・クーペ」と「クラウン・ヴィクトリア・クーペ」の違いは、「クラウン・ヴィクトリア・クーペ」の方がステンレス・スチールのモールが多かった、ということのようです。 「レーシング・チャンピオンズ」が、この1956年の2ドア・モデルの警察車を「ヴィクトリア」としているのは、正しいと言えるでしょう。モールで飾られたタイプが警察車に選ばれることはないからです。 この後も続いていく「ヴィクトリア」「クラウン・ヴィクトリア」は、フェアレーンのバリエーションからスタートしているようです。 これらのフェアレーン・シリーズの市販車のエンジンは、223ci(3650cc)の直列6気筒と、272ci(4460cc)V8の両方がありました。ちなみに「フェアレーン」というのは、ミシガン州・ディアボーンの近くの、ヘンリー・フォードの邸宅の名前に由来するようです。 1932年以来のフォードV8エンジンはフラットヘッドでしたが、1954年にオーバーヘッドのV8エンジンを導入。つまりバルブがシリンダーのサイドではなく、上に付くカタチです。このオーバーヘッド・V8エンジンのシリーズを「Y-ブロック」と言っています。ポリス・パッケージでは、市販車の上級タイプと同じ272ciのほか、292ci(4785cc)、323ci(5300cc)と、排気量が拡大していきます。 「レーシング・チャンピオンズ」の1958年の「エドセル」。ミシガン州・アレンパーク市警。 1919年から2代目社長をつとめたエドセル・フォードの名前にちなむもので、1958年に、「フォード」と「マーキュリー」の間を埋めるものとして導入されました。 ところが「斬新」なフロント・グリルのデザインの評判がよろしくなく、販売が不調で、1960年式を最後に「エドセル」のブランドそのものが消滅しています。上述の資料本「Ford Police Cars」でも、ファイアチーフカーと、警察のスタッフカー(捜査用車両)として使われているエドセルの写真は載っていますが、制服ポリスカーの写真はありません。このスケールでのエドセルのポリスカーのモデルというのは貴重な存在です。 1958年には、マーキュリー・モントレーのポリス・パッケージなどでは430ci(7000cc)・V8・400馬力という「ビッグ・ブロック」が載せられていましたが、「エドセル」では結局ポリス・パッケージは作られませんでした。 次回は60年代に入ります。 |
1960年代 レズニー・マッチボックスが1963年に発売した「フォード・フェアレーン」(55B)。 第3世代のフェアレーン、1961年式です。 スケールは1/80。フルサイズのアメリカ車が、この時代のマッチボックスの箱に入るために、こういう小さ目のスケールになったものでしょう。鉄道模型はイギリス型が1/76(OO)、アメリカとイギリス以外の欧州が1/87(HO)ですから、1/80のこのモデルは鉄道模型のレイアウト上に置かれるのに重宝されました。 1961年には、フォードはポリスパッケージとして25種の車輛を用意していました。 ポリス・インターセプター・セダンが2種、ステーション・ワゴンが15種、ポリス・セダンが8種でした。 このうち、119インチ(3023mm)ホイルベースのフェアレーンでは、2ドア、4ドア、そして3種のステーション・ワゴンが用意されました。 マッチボックスのモデルは金型の彫刻は大変にシャープですが、アメリカン・ポリスとしてはあまり現実感のないマーキングがされています。レズニーとしては、あまり特定の地域をイメージさせるカラーリング/マーキングにする気持ちがなかったのでしょう。フェアレーンのポリス・パッケージはカナダでも使われているので、合衆国以外の地域のことも意識されているものと思われます。 グレーとシルバーのホイルのものがあり、これらは大変に高価な市場価値がついています。また、最初期の、ボディのブルーが濃いものもあります。マッチボックスは、フェアレーンのノーマル乗用車は発売しておらず、ポリスカーとファイア・チーフ・カーだけを発売しています。 3インチ・サイズではありませんが、英ディンキーのモデルが手元にあるので、載せておきましょう。 右のNo.258が、黒に白ドアの「U.S.ポリスカー」で1962年から1963年の生産。 左のNo.264が、ブルーに白ドアの「RCMP(Royal Canadian Mounted Police/カナダ騎馬警官隊) ポリスカー」で1962年から1965年の生産。「U.S.ポリス」の方が短期で生産を終えています。 No.148のノーマル乗用車のフェアレーンをポリスカーにしたものです。スケールは1/45ぐらいのようです。 マッチボックスが発売された1963年には、「U.S.」「RCMP」両方が既に発売されていたことになります。そう考えると、マッチボックスのブルーの塗色は、「RCMP」にインスパイアされたものかもしれません。 マッチボックス、ディンキーともにモデル化している年式は1961年です。1961年式はボンネット先端がカーブを描いて下に落ち込んでいるのが特徴ですが、1962年式ではボンネット先端がひさしのように前に突き出しており、印象が変わります。61年までは第3世代ですが、62年からは第4世代になります。 また、「年式」というのは「for the 1961 model year」で、「1961年モデル」は当然ながら前年に発表されていることになります。 ジョニーライトニングによる、「フォード・ギャラクシー」。 右は「アメリカン・グラフィティ」のシリーズとして売られたもの。 ジョージ・ルーカス監督、1973年の映画ですが、これも劇中車のマーキングをかなり正確に再現しているようです。 屋根上灯をわざわざ2灯式に変えていますが、映画で使われたものとは若干形状が異なるようです。 左はSFPD(サンフランシスコ市警)仕様。 いかにも、60年代前半の、フルサイズのアメリカン・ポリスを再現していて、実際に60年代当時につくられたマッチボックスのモデルにはない、良い雰囲気を持っています。 車名は「ギャラクシー」ですが、マッチボックスやディンキーのモデル化した「フェアレーン」と同じ顔つきをしていることにお気づきでしょうか。 「ギャラクシー」は、1959年に導入された車名ですが、当初はこれも「フェアレーン」の中の上級車種の名前でした。つまり「フォード・フェアレーン・ギャラクシー」でした。「ヴィクトリア」も「ギャラクシー」も「フェアレーン」で、それぞれの名前が個別に発展してしまった現在から見れば、混乱の原因になりますが、いわば「トヨペット・コロナ・マークU」のようなものでしょうか。 カードに印刷された年式は1961年になっています。つまり、マッチボックスやディンキーのフェアレーンと同じ年式ですね。1961年のギャラクシー(第2世代)、1961年のフェアレーン(第3世代)ともに全長209.9インチ(5331mm)、ホイルベース119インチ(3023mm)で、基本的に同じボディであることが知れます。 1961年のギャラクシー市販車では、390ci(6400cc)の「FEシリーズ・プッシュロッドV8」と4バレル・キャブレターが用意され、ハイ・パフォーマンスがセールスポイントになっていました。 もう1点、フェアレーンは1962年式から第4世代になり、フロントマスクも変わりますが、ギャラクシーの方は1964年まで、引き続き第2世代の同じボディを載せています。 1962年という年には、「フェアレーン」がミッドサイズにシフト、「ギャラクシー」がフルサイズ車のシンボル・ネームになるという大きな変化がありました。1962年式・第4世代ののフェアレーンは、全長197インチ(5004mm)、ホイルベース115.5インチ(2934mm)にダウンサイズされたので、ギャラクシーに比べて全長で327mm、ホイルベースで89mm短くなっているのです。 1962年式・第4世代になったフェアレーンのエンジンは、4.3リッターまでです。そうして見ると、「ギャラクシー」が分化・独立していった理由がわかります。 同じくジョニーライトニングのモデルで、左は「The "Point" American Flashbacks in Time」の2台セット、フィギュア付きシリーズの中のもので、マーキングは、カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール。 右は「Hollywood On Wheels」のシリーズ、「The Andy Griffith Show」の劇中車。シンプルな星のマークの中に「Mayberry Sheriff」のブリントがあります。 「アンディ・グリフィス・ショー」などというと、トークショーかバラエティのように思いますが、1960年からCBSで放送されたれっきとしたドラマ・シリーズで、1968年まで249話も作られました。 主人公はアンディ・グリフィス演じるアンディ・タイラーという、ノースカロライナ州のメイベリー(Mayberry)という架空の街の保安官です。小さな町のこととて、毎回大きな犯罪は起きず、ポリス・アクションではなくて、小さな町の日常の生活を描いたドラマで、1967-1968年期には、ニールセン調査での全米最高視聴率に輝いたこともあります。 日本でも『メイベリー110番』という題名で1964年から放送されました。この頃、アメリカのTVドラマはほとんどが日本でも放送されていたのです。残念ながら私は『メイベリー110番』を見た記憶がありません。
このページの最初でご紹介している資料本「Ford Police Cars 1932-1997」には、この「The Andy Griffith Show」の劇中車そのものの写真があるのですが、1961年式はギャラクシーではなく「フェアレーン」、1963年式になって「ギャラクシー」になっています。上がその61年式フェアレーンですが、これはレズニーとディンキーのモデルそのものですね。 下は63年式ギャラクシーの劇中車です。
番組は1960年10月3日から始まっているので、61年式フェアレーンの前は何を使っていたのだろうと思います。もちろん、劇中車では、実際のポリス・パッケージを使う必要はなく、市販車のフェアレーンやギャラクシーを黒白に塗り、屋根上灯などを付けてポリスカーに仕立てるわけです。番組が継続していく中で、使用車の年式が頻繁に更新され、最新型をキャッチアップしていることに驚きます。フォードとしての宣伝的な意味もあったのでしょう。 しかし、1960年代の地味なTVドラマの劇中車をモデル化するジョニーライトニングは、どういう世代をターゲットにしているのでしょうか。 ジョニーライトニングの「ギャラクシー」には、イリノイ州・クック・カウンティ・シェリフ仕様もあります。これもパッケージで61年式を明記しています。他のギャラクシーが白黒塗装ばかりなので、白とマルーンレッドのカラーは新鮮にうつります。 「America's Finest/ Authentic Replicas of Real Police Vehicles」というシリーズで、「Real」というところにアンダーラインが引いてありました。「Help Us Find the Missing Children」という趣旨で行方不の子供たちの写真を印刷したカードが同梱されていました。この子供たちのその後の消息はつかめたのだろうか、と考えると複雑な気持ちにさせられます。 ジョニーライトニングは、63年式・ギャラクシー500の2ドアをモデル化していますが、これにはポリスカー仕様のモデルはありません。いずれにしても、ジョニーライトニングのモデルはこのサイズにとしてはスケールモデル性が高く、最初に見た時には驚いたものでした。 上は1965〜68年の、第3世代のギャラクシー。 レズニー・マッチボックスが、1966年に「#55C」として製品化しました。フェアレーン・ポリスの絶版後に、同じ「55番」の差し替えとして発売しています。1/73というスケール。これは当時のカタログに表記された数字です。 ギャラクシーは1965年に縦2列ヘッドライトのデザインにフル・モデルチェンジしており、レズニーはこの1965年式をモデル化しています。1965年モデルから「ギャラクシー500 LTD」が追加されましたが、この「LTD」という名前もやがて独立していくことになります。 新ギャラクシーは、ボデイだけでなく、リア・サスペンションの新スリー・リンク・システムなど、新機軸が導入されました。65年式市販車では最大は390ci(6400cc)ですが、66年式では428ci(7000cc)が追加されます。フェアレーンと分離された、フルサイズ車としてのポジションをキープしているわけです。 このギャラクシーでは、2ドアと4ドアがあり、州警察・ハイウェイパトロールで多く使われたようです。 マッチボックスのモデルは、「フェアレーン」と同じデカールを流用して貼り付けています。 レズニーは、ギャラクシーでもポリスカーとファイア・チーフ・カーのみで、ノーマル乗用車は発売していません。ところが車体後部には牽引フックが付いています。 白1色のシンプルな塗装ですが、州警察のポリスカーには、比較的近い印象のものもあります。 下は、1965年のギャラクシー500の実車。ミズーリ州警察。薄いライトブルーです。
上はレーシング・チャンピオンズの、1965年式ギャラクシー500。 裏板に、「'65 Ford Galaxie 500」とモールドで明記されています。マーキングはペンシルヴェニア州警察。 1963年〜1965年の時期のフォードのポリス・パッケージは、119インチ(3023mm)ホイルベース、フルサイズのギャラクシーと、115.5インチ(2934mm)ホイルベース、「ミッドサイズ」のフェアレーンが基本で、この両方に2ドアと4ドアがありました。 エンジンは260ci(4260cc)または289ci(4736cc)のスモールブロックで、1961年〜1962年が390ci(6390)のFEブロックであったの比べて、エンジンもダウンサイズしています。62年にフェアレーンが「ミッドサイズ」にダウンサイズされた時期とも合っています。フルサイズ車のエンジンをどんどん大きくしていくだけでなく、ポリスカーにもミッドサイズ化の流れが生まれます。ただしエンジンを大きくしていく流れがなくなったわけではありません。ギャラクシー500は、その中でもフルサイズ車としての貫録をキープしているわけです。 1965年のギャラクシーを、最近になって「グリーンライト」がモデル化しました。 裏板の著作権表示は2008年になっており、少し前の製品ですが、60年代のフルサイズのポリスカーを1/64の統一スケールで、非常に良い雰囲気でモデル化しています。この密度はジョニーライトニングを上回っているように思います。 新しい製品ですから、60年代当時に作られたレズニーのモデルとは全く違った、オーセンティックな佇まいを持っています。 このサイズのポリスカーをたくさん見て来ましたが、最も上質なモデルのひとつと言っていいように思います。 レーシング・チャンピオンズのモデルと比べても、この20年ぐらいの3インチ・サイズのモデルの技術的な進化を感じずにはいられません。 レズニーが4ドアであるのに対して、こちらは2ドアを選択しています。 黒と銀で格子状のグリルが再現されており、ボンネット開閉アクションを持ちます。 左の白屋根がインディアナ州警察、右のブルー1色はマサチューセッツ州ウエストウッド警察です。 下の白ボディは「County Roads」というシリーズ中のもので、ミズーリ州のシェリフ、としています。 上の側面クリームの1台は、1967年のフォード「カスタム」、アリゾナ州フェニックス市警。 同じくグリーンライトの製品で、フォードのポリスカーの歴史の間を埋めてくれる、貴重な存在です。 パッケージの著作権表示が2016年になっている、新しい製品です。 こういう、60年代のアメリカン・ポリスカーの良いモデルがこのスケールでモデル化されるのは喜ばしいです。 残念なのは屋根上灯が少々オーバースケールで、屋根との間隔もあき過ぎていて、繊細な感じがなくなってしまいました。 フォード「カスタム」という名前は、フェアレーンがミッドサイズ車にシフトした1962年にいったん廃止されましたが、その後また復活しています。「カスタム」というのは何かと言うと、フルサイズ車としてキープされているギャラクシーの装備を、ポリスカーやタクシーの仕様にグレードダウンしたものです。 1967年式で見ると、 「カスタム」: 全長213インチ(5410mm)、ホイルベース119インチ(3023mm) 「ギャラクシー」: 全長213インチ(5410mm)、ホイルベース119インチ(3023mm) 「フェアレーン」: 全長197インチ(5004mm)、ホイルベース116インチ(2946mm) つまり「カスタム」と「ギャラクシー」は同じクルマで「カスタム」は業務仕様、「フェアレーン」はフロントマスクは似ていますが、ダウンサイズされているわけです。 グリーンライトの「カスタム」のモデルは、ボンネット先端が鋭角状に前に突き出ているのがわかりますが、ギャラクシーも67年式では、同じ顔つきになります。
上は1967年の「カスタム」、2ドアの実車。マサチューセッツ州警察。ボンネット中心部の先端が前に突出し、グリルのパターンも変わっていますが、グリーンライトの「67年式カスタム」はこの状態を再現しているわけです。 州警察の使用車では、「ダウンサイズ」化という傾向とは無縁に、428ci(7000cc)FEブロックV8・360馬力の大きなエンジンを積んでいるものがありました。 これは1967年式の「フェアレーン」。ジョニーライトニングによる「限定品」のポリス仕様。 フェアレーンとしては第5世代で、1966〜1967年に作られました。「カスタム」が67年式でボンネット先端が突き出た形になったのに対して、フェアレーンは同じ67年式でも従来のままです。66年式に出た第5世代を67年式でも継承しているわけです。 ジョニーライトニング、グリーンライトが、ある程度正確に1/64にスケールダウンしていると考えて、「フェアレーン」「ギャラクシー」「カスタム」を比べてみると、「ギャラクシー」「カスタム」の方がかなり大きいことがわかります。 左「'67 フェアレーン」、中央「'65 ギャラクシー」、右「'67 カスタム」です。 全長、ホイルベースともに「カスタム」が長く、特にリア・オーバーハングがかなり長くなっています。 「フェアレーンがミッドサイズ車になった」ということがモデルを見ても実感できます。 全幅で見ても、ギャラクシーとカスタムは79インチ(2007mm)あるのに対して、フェアレーンは74インチ(1880mm)です。 レズニーのモデルだけ見ている時には、この「顔つき」のクルマはみな「ギャラクシー」だと思っていたので、この項を書くことでかなり勉強になりました。 1968年に、レズニー・マッチボックスの「55番」は、マーキュリー・ポリス(#55D)に差し替えられました。スケールは1/72。 左がレギュラー・ホイル時代のもので、屋根上灯が赤のものが、大変に高価な市場価値がついています。 (レギュラー・ホイルで赤灯のものに限られます。スーパーファストホイルで赤灯のものは多く作られています。) 1970年に、「55番」は、スーパーファスト・ホイルに履き替えられ、MB55-Aになりました(上の右のモデル)。 赤灯と青灯がありますが、こちらは市場価値は同じぐらいです。 1967年に、フォードは合衆国におけるポリスカーのNo.1ブランドになりました。つまりアメリカの最も多くの警察組織で使われている、ということです。 1968年時点でフォードが用意したポリス・パッケージは、「カスタム」「カスタム500」「フェアレーン」で、それぞれに2ドアと4ドアがありました。「カスタム」は「ギャラクシー」の業務用仕様、「フェアレーン」は前述のようにミッドサイズ車です。一方、州警察ではマーキュリーを好んで使うようになりました。 マーキュリーは、1968年でフォードがポリス・パッケージのために用意した最大のエンジンである、428ci(7000cc)の大きなエンジンを積んでいました。ただしマーキュリー・モンテレーには、ポリス・パッケージでなく、市販車にも428ciのものがありました。ホイルベースは123インチ(3120mm)あります。
428ci(7000cc)の1968式・マーキュリー・モンテレー(Mercury Monterey)、インディアナ州警察で就役中の実車写真。実際に白1色です。マッチボックスのモデルは、州警察を意識していて、レギュラーホイル時代の車高の低さも含めて、実車のイメージにかなり近いことがわかります。 こうして見て来ると、レズニーは、「フェアレーン」「ギャラクシー」「マーキュリー」と、実際に多くが就役していた車種を選んでポリスカーにしており、かなり明確なスケールモデル指向を持っていたことがわかります。 これに対してトミカは、キャデラック・フリートウッド・ブロアムに実在のマーキングを施したポリスカーを「ポリスカー・フェア」と称して作りました。キャデラックのポリスカーが皆無とは言えないようですが、かなりの「特別仕様車」であり、実車の写真の中には、本部長用、パレード用とか、後になってファンがカスタムしたようなものも含まれている可能性があって、いずれにしてもポリスカーとして一般的な車種ではありません。救急車は沢山作られていますけれど。 ポンティアックも、オールズモビルも、ダッジ・モナコも、アメリカ車なんて似たようなものさ、ということなのかもしれませんが、こうした実在マーキングと組み合せられると、子供たちにとってはインパクトのある情報ですから、その地域でキャデラックの実車が使われていると思うのですね。大きくなっても信じていたりするのです。いっそ、架空マーキングであればまだしもですが、そういう影響があることについても、レズニーは配慮していたのではないかと思います。 スーパーファスト・ホイルになって、車高が高くなり、フルサイズ・アメリカ車の低い印象から遠ざかっていきます。 レギュラー・ホイル時代は白ボディのみ、スーパー・ファストになってからも「MB-55A」では白ボディのみですが、 ファイアチーフのは品番「MB59-B」から、赤いファイアチーフだけでなく、白黒のポリスカーのバリエーションがたくさん出ているので、混乱のもとになります。「MB59-B」は、当初はドーム型の屋根上灯が1灯でしたが、後期ではバーランプになりました。ポリスカーがたくさん作られ出したのは、バーランプになってからです。白ボディに青・黄色のストライプのものは、ニュージャージー州警察の実際の塗装に似ています。 レズニーは、1968年に2ドアの「マーキュリー・クーガー」(#62C)を出していますが、これはノーマル乗用車のモデルで、ポリスカーは作られませんでした。 1971年には、「55番」はマーキュリーのステーション・ワゴンになります。スケールは1/72。 後期では、シール類が派手なものになり、1975年からは「55番」は「ヘル・ライザー」という、ホットホィールを意識した妙なモデルになってしまいます。 レズニーからの発売は1971年で70年代に入っていますが、マーキュリー・ステーション・ワゴンは1968年に、レギュラーホイルを付けた民間乗用車(#73C)として発売されていて、年式は1968年と思います。 レギュラーホイルのステーション・ワゴンでは、ポリス仕様は作られていません。 1970年代 1969年に429ci(7030cc)・360馬力の「ビッグ・ブロック」がポリス・パッケージに導入され、ハイウェイ・パトロールなどでは7リッター・クラスの大きなエンジンが常態化していきます。 マーキュリー・モンテレー、ギャラクシー500などは70年代に入ってモデルチェンジを続けて行きますが、この時期の良いモデルがありません。これは、ダイキャストミニカーが転換の時代を迎えていたからと思われます。 1968年にホットホィールが発売されて、アメリカ市場を席巻してしまい、レズニー・マッチボックスなどの欧州メーカーの販売が不振に陥った結果、ホットホィールのテイストに無理に迎合しようとした製品が増え、マーキュリーやギャラクシーのモデルチェンジを追うような、ベーシックなモデルが作られなくなってしまったのです。 ただしレズニーは、1979年にプリマス・グラン・フューリーのポリスカー(MB10-C)を作っています。(これはフォード車ではないので、ここではご紹介しません。) 1980年には、レズニーは既に財政的な圧迫を感じるようになり、1982年6月に破綻してしまいます。 1977年に発売された、コーギー・ジュニアの「グラン・トリノ」(刑事スタスキー&ハッチ)が、70年代の「フォードのポリスカー」のモデルとしては希少なものです…。(サンフランシスコ市警では、4ドア車ですが実際にトリノをポリスカーに使っています。) 下は、1973年のマーキュリー・モンテレー。ニュージャージー州警察。 1978年発売(金型は76年)のトミカの「キャデラック・ポリスカー」のプロトタイプは、案外こんなところかもしれません。
プラキットでは、1970年式の4ドアの「ギャラクシー」をAMTが1/25で作っています。また1972年ぐらいの2ドアの「サンダーバード」を、オータキが「SWAT」という商品で無理やりロス・カウンティ・シェリフ仕様にしたものがありました(1/24)。 1970年代の「カスタム」や「マーキュリー」などを、いずれグリーンライトあたりがモデル化して、歴史の谷間を埋めてくれるかもしれません。 次回80年代では、「LTD」、「マスタング」が登場の予定です。(2016/8/27) |
1980年代 1987年初出のマッチボックスの「フォードLTD」(MB16-E/MB184)。 「マッチボックスUSA・ニューズレター」によるバリエーション番号では、37番までのバリエーションがあり、量産以前のプレ・プロダクション・モデルも数種が確認されているようです。 商品名は「フォードLTD・ポリスカー」であり、ボディ左側面にレーダー・スピード計測装置を付けていて、ポリスカー専用金型であることが知れます。屋根上灯はゴツいツクリですが、青・赤の2色を丁寧に再現しています。 既にレズニーは経営破綻しており、ユニバーサル(1982〜1992年)による製品です。 レズニーによる「プリマス・グランフューリー」の初出が1979年でしたから、「フォードLTD」まで8年のブランクがあったことになります。 「LTD」としては、第3世代(1979〜1982年)の車型です。 第3世代のLTD市販車には、4ドア・セダンのほか、2ドア・セダン、5ドア・ステーション・ワゴンがありました。 「LTD」のポリス・パッケージとしては、「LTD-S」の4ドア・セダン、「LTD」の2ドア・セダン、4ドア・セダン、フェアモント・4ドア・セダンがあり、エンジンは255ci(4180cc)、302ci(4950cc)、351ci(5750cc)が用意されました。 このうち、2ドア・セダンは、フルサイズのポリス・パッケージとしてフォードが2ドア車を用意した最後のモデルでした。 「LTD」という名称は実は1964年からあり、1965年には「ギャラクシー500LTD」として、フルサイズ・フォードの一角を占めていました。ちなみに「LTD」は「エル・ティー・ディー」と発音され、「リミテッド」ではありません。 一方1980年に、「LTDクラウン・ヴィクトリア」が登場。1991年まで生産されます。 「クラウン・ヴィクトリア」という名前のはじまりは、1955〜56年の「フェアレーン・クーペ」の最上級グレードに付けられたものでした。この「LTD」と「クラウン・ヴィクトリア」がひとつのクルマの名前として1980年に複合化されたのです。ポリス・パッケージに「クラウン・ヴィクトリア」が登場したのは、1983年が最初でした。 さて、マッチボックスが1987年にモデル化したのは、「LTD」か、「LTDクラウン・ヴィクトリア」か、という問題が残ります。 1979年から1981年まで、「LTD」はヘッドライトが2灯、つまり片側1灯だったようです。 1982年からこれが4灯、片側2灯になりました。
「LTD」と「LTDクラウン・ヴィクトリア」の、写真から判断できる外観上の違いというと、「LTD」の方はラジエーターグリルのセンターに、フレームが一本入っているようです。上の写真です。 これに対して「LTDクラウン・ヴィクトリア」の方にはこれがなく、グリル全体が格子状のメッシュになっています。下の写真です。
マッチボックスのモデルを見ると、グリルのセンターにフレームはなく、この流れで行くと「LTDクラウン・ヴィクトリア」のように思えます。格子状グリルの様子も、上の「LTDクラウン・ヴィクトリア」の実車写真に良く似ています。 第3世代「LTD」の市販車の生産は1982年で終わっていますから、マッチボックスの製品の1987年という発売時期を見ても、モデル化されているのは「LTDクラウン・ヴィクトリア」と考える方が自然でしょう。 マッチボックスの商品名はあくまで「FORD LTD」であり、裏板にもそのようにモールドされているのですが、「LTDクラウン・ヴィクトリア」も「LTD」の中のグレードのひとつであるなら、この表現でも間違いはないということになるでしょう。 (上の写真の右は、ジョニー・ライトニングですが、これもグリルのセンターにフレームはありません。) 通常品よりも繊細なマーキングや色差しを施し、特別なゴム(軟質プラ)タイヤを履いた「プレミアコレクション」の「シリーズ8」から発売された、州警察のシリーズ。 ヴァージニア(左)、フロリダ(右)、ニュージャージー(下)の各州警察がありました。 デキは悪くはありませんが、ホイル径が大きすぎ、余計に車高が高くなって損をしています。 スペシャル仕様の紙箱がつき、ブリスターカードの中にミニカーと紙箱が同封パックされる形式で売られました。 シリーズのスタートは1996年のタイコ期ですが、LTDの3台の州警察仕様が含まれた「シリーズ8」は1997年の製品で、すでにマテル期に入っています。 マッチボックスのLTDポリスは、ユニバーサル/タイコ/マテルと3代を生きたわけです。 ジョニー・ライトニングも「LTD」を作っており、「ブルース・ブラザーズ」仕様(左)もありますが、こちらもグリルのセンターにフレームはありません。実車にもよく見られる、大型プッシュ・バー(プッシュ・バンパー)をフロントに付けています。 右は、ニューヨーク市警(NYPD)の旧塗装ふうですが、「NYPD」とは書いてありません。NYPDは、商品化許諾にシビアなので、「NYPD」と書くと、許諾料が発生するためと思われます。 アメリカの出品者の一人が、ブルース・ブラザースのモデルを「Ford Victoria」と書いていて、意を強くします。残念ながら、ジョニー・ライトニングの裏板には車名の表記がないのです。 「フオードLTD」だと思っていたマッチボックスのモデルについて、「Crown Vic」と書いて来た人も過去にありました。「Vic.」は「Victoria」の略です。この原因がようやく理解できました。 この後、「クラウン・ヴィクトリア」は、フォードのポリスカーにとって重要な位置を占めるようになります。
80年代の大きな動き、それは、1982年に、CHP(カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール)が、5.0リッターのマスタングを導入したことです。 この頃を境として、ポリス・パッケージには、2つの領域が生まれて来ました。 (1)Police Pursuit Vehicle (PPV) (2)Special Service Vehicle (SSV) 「PPV」は、「フル・ポリス・パッケージ」を意味し、いわゆる「ポリスカー」、私たちの通常のイメージを裏切らない「パトカー」です。追跡をはじめとする「ヘビー・デューティー」の警察業務が遂行できることを前提としており、アップグレードされたエンジン、ヘビーデューティ対応のブレーキ、サスペンション、クーリング・システム、無線や警光灯の使用を前提とした電気系統の強化などが、市販車をベースとして加えられます。 ポリスパッケージではフルサイズ車を前提に、エンジンの大排気量化が続けられて来ましたが、それが70年代の末から80年代の初めに、「ダウンサイズ化」の流れが生まれました。市販車でミッドサイズ化する車種が現れ、警察でもミッドサイズ車を採用することが一般的になっていきます。 一方、警察車輛といっても役割分担があって、全ての車両が大排気量エンジンを必要とするパシュート(PPV)である必要はないわけです。交通警察ユニット、指揮統括ユニット、警察犬ユニット、山岳地方での使用などには、スポーツカーや、SUVなど、より専門機能に特化した車輛に置き換える、という分化の流れが生まれたわけです。これがSSV (Special Service Vehicle)です。 州警察のハイウェイ・パトロールでは、フルサイズの大排気量車が好んで使われていましたが、その後手配車輛の追跡・確保のような任務であればPPVを、交通違反取締であればSSVを、というように分化していったわけです。フォードの、そしてアメリカの代表的なスポーツカーである「マスタング」は、まさにこの「SSV」としてCHPに採用されました。 1982年の時点で、302ci(4950cc)のマスタング、350ci(5735cc)のカマロ(フォードではなくGM車)は、CHPの業務をこなすのに十分な性能を持っていると評価されていました。302ciのマスタングは、時速60マイル(96.6km)までの加速に6.9秒、100マイル(160km)までの加速に21.1秒、最高時速が128マイル(206km)でした。 1982年中頃には、302ciエンジンは255ci(4180cc)-V8に置き換えられています。 「グリーンライト」による、1987年式マスタング。 1979年〜1993年に生産された第4世代マスタングの、ハッチバック車をモデル化しています。 NYPD(ニューヨーク市警)は、実際にマスタングを運用しています。 マスタングというと、州警察レベルでのハイウェイでの運用を想像しますが、ニューヨーク市内でも使われていることに驚きます。 グリーンライトは、「authentic die-cast vehicle replicas」(ダイキャスト製精密レプリカ)を標榜し、「NYPD」をシリーズ化して各スケールでモデル化しているので、車種選択やマーキングには信憑性があると考えて良いでしょう。 グリーンライトは、NYPDに商品化許諾料を払っているわけです。他にもNYPD車輛のモデルをたくさん出しています。 下は、1987年式マスタングの実車(CHP所属)です。
同じくグリーンライト・1987年式ですが、こちらは黒1色のシリーズ(Blck Bandit)のもので、これはたぶん架空系と思われますが、こういう実車(警察車両)があっても不思議はありません。 NYPDの色替えかと思っていましたが、NYPDがハッチバックであるのに対して、クーペをモデル化しています。 第4世代マスタングは、どうやら1985年までがヘッドライトは4灯が露出、86年から2灯を一体化させた形になるようです。 上も同じくグリーンライト、「Hot Pursuit」というレーベルの、ニューヨーク州警察仕様。ニューヨークの市警ではなく、州警察です。ハイウェイ・パトロールは、基本的に州警察の所管です。 年式は「1988」としています。モデルごとに屋根上灯を変えています。 今回はムリをせず、90年代は次回に回したいと思います。(2016/10/15) |
1990年代 90年代に入りますが、80年代の後半で取り上げていた、マスタングからの流れを引き継ぐことにします。 第4世代マスタングは1993年まで生産されているためです。 グリーンライトは「1992・1993年式」、マッチボックスは「1993年式」としていますが5.0リッター「マスタング」の「スペシャル・サービス・パッケージ」は、1993年式も1992年から変更されていません。 グリーンライトは、パッケージや裏板のプリントで、1987、1988、1992、1993の各年式をうたっていますが、チン・スポイラー/テールウィングの有無を別にすれば、年式による金型の違いはないようです。 取材した実車の年式を標榜している、ということでしょうか。 左のブルーのモデルは、グリーンライト、ミシガン州警察のクーペ。 第4世代マスタングですが、年式は1992年としています。 屋根上灯がありませんが、モデルとして手を抜いているわけではなく、州警察レベルのSSVでは屋根上灯のない車輛が結構あります。 右の白黒ポリスは、SFPD(サンフランシスコ市警)のマーキング、屋根上灯とテールウイングを付け、年式を1993年としています。 以前のジョニーライトニングと違って、グリーンライトは裏板に車名・年式を細かくプリントしてくれています。 こちらはマッチボックス。2014年になって突然第4世代マスタングのポリスを製品化しました。 製品名は「 Ford Mustang LX SSP Police」、年式を1993年としています。(MB95-B/MB969) 「SSP」は「SSV」(Special Service Vehicle)とまぎらわしいですが、フォード側で付けられたマスタング・ポリスパッケージの車名で、「Special Service Package」を意味します。 マスタングSSPでは、標準またはオプションで細かな部分での変更が行われており、ラジエータホースをシリコン製のものにしたり、オルタネーターのヘビーデューティ化、スピードメーターの交換(高速対応)等々。また、マニュアル・トランスミッションは、頻繁に無線を使いながらのシフトレバーの操作が煩雑であるため、オートマチック・トランスミッション化された車輛も多いようです。 マッチボックスのモデルはCHP(カリフォルニア・ハイウェイ・パトロール)のマーキングをしていますが、CHPは本来ドアだけでなく屋根を白く塗るのですが、それが再現されていないのが残念。屋根を白くするとなると、プリントではすまなくなり、塗装工程が増えてしまうので、コスト政策上カットされているのでしょう。(ドアの白はプリントです。) 下が、CHPの実車の姿で、年式も同じ1993年です。
屋根上灯を別パーツにせず、窓パーツの一部が突き出る形になっており、したがって透明なままなのも、コストカットの結果です。プロポーションは良いし、シャープなのですが、裏板がプラスチックであることもあって、なんとなく、ちょっと寂しい気持ちになります。 しかし、今後もこういう年式の古い、ポリスカーのスケールモデルが作られる可能性を示唆するものではあります。マッチボックスも、ホットホィールと同様に、架空系のモデルと、スケールモデルが混在し、かつ架空系のものが増えて来ているように感じます。 マッチボックス、1997年初出のフォード・クラウン・ヴィクトリア(MB54-K/MB304・459・466)。 1997年はマテルがタイコを買収し、「マッチボックス」がマテルのものになった最初の年です。おそらく金型の開発はタイコ期から進められていたのではないでしょうか。 上の3台は通常品として出たもの。架空系の、かなり派手なマーキングのものもありますが、比較的おとなしいカラーのものを選んでいます。 その後全米の警察にとって非常にポピュラーな車輛となった、1992年以降の4.6リッター・SOHC・クラウン・ヴィクトリアのポリスカーをモデル化しています。 「クラウン・ヴィクトリア」は「LTD」の中のグレードでしたが、1992年(発表は1991年)に「LTD」から完全に独立しました。1992年式ではグリルがありませんでした。下が、グリルが無い時期の実車写真です。
1993年にグリルを追加。ここまでが「第1世代前期型」です。 写真ではわかりにくいですが、グリルは横フレームのみです。
1995年式から新グリルになり、これを「第1世代後期型」と呼んでいます。グリルに縦ライン2本が加わっています。 ポリス・パッケージも、市販車の流れ同様に「LTDクラウン・ヴィクトリアの」ポリス仕様車を継承する形で生まれました。
マッチボックスのモデルは、グリルの縦フレームまでは再現されていませんが、リアのナンバープレートがセンターにレイアウトされていることから1995年以降の「後期型」と考えられます。1997年という発売時期から言えば当然の選択でしょうか。 マッチボックスUSA・ニューズレターによるバリエーション番号は、確認できるもので126番まであり、この中には同一番号でa・bのあるもの、量産前のプレ・プロダクションなどを含めると130種ぐらいあります。 これは通常品以外に、州警察のシリーズ、ギフトセットなどに、ポリスカーのポピュラーな金型として、色替え・プリント替えに活用されたためです。 このマッチボックスのモデルを、グループごとに掲載することにします。 この項を書いていてあらためて思ったのですが、マッチボックスのクラウン・ヴィックのバリエーションについては、自分でもすっかりそれぞれの出自を忘れてしまっており、以前に「マッチボックスのアメリカン・ポリス」として当サイトに掲載していた情報を整理して、再掲載しようか、という気持ちになりました。ただし本稿と関連する、フォードのポリスカー限定です。 「クラウン・ヴィクトリア」分も再編集しましたので、合わせてご覧ください。 「プレミア・ステートポリス・コレクション」と名打った、各25,000台の限定、ゴムタイヤを履いた特別仕様の第2シリーズで、「クラウン・ヴィクトリア」が作られました。 左からサウスダコタ・ハイウェイ・パトロール、モンタナ・ハイウェイ・パトロール、ミネソタ・ステート・パトロール、の3台です。 第1シリーズはLTDとカマロだけで、ヴィクトリアは出ていません。 第3シリーズの、左からロードアイランド・ステート・ポリス、ノースダコタ・ステート・パトロール、ミズーリ・ステート・パトロール。 第2シリーズはタイ製でしたが、第3シリーズは中国製になっています。 「クラウン・ヴィクトリア」はフルサイズ車ですから、車高の低い、全長の長さの目立つクルマですが、マッチボックスのモデルは特性ホイルを履いたことで更に車高が上がってしまい、フルサイズ車の印象から遠のいてしまっています。 「プレミア22」と呼ばれる、マッチボックス・プレミア・コレクション中の「シティ・ポリス・シリーズ」のパッケージに入れられていたようですが、実態は「プリ・プロダクション・サンプル・モデル」という位置づけで、マッチボックスのニュージャージー事業所(マッチボックス・インターナショナル・リミテッド)が稼働していた時期に、市場の反応を見るために制作・配布されたもので、制作数は各400台以下とされます。 左から「アトランタ」市警、「ダラス」市警、「フィラデルフィア」市警。 「マッチボックス・プレミア・コレクション」シリーズの位置づけであるため、ホイルはゴムタイヤを履きます。 「アトランタ」マーキングのものについては、私の入手したモデルはボディ左側の赤ストライプの一部が欠けているので、タンポ印刷ではなくてデカール貼りし、上からクリア塗料をコートしているように見えます。 アトランタがデカール貼りに見えるのに対して、「フィラデルフィア」はタンポ印刷が施されているように見えます。加えて、「アトランタ」がタイ製であったのに対して、「フィラデルフィア」は中国製、「アトランタ」の屋根上灯が青1色だったのに対して、青/赤のコンビネーションを付けている、といった違いがあります。 「プリ・プロダクション・サンプル・モデル」というと、開発スタッフが手塗り・手描きで1〜2台制作したもののようなイメージを持ちますが、「DPD(Department of Planning and Development)スタッフだけに販売された」という表現をしている資料があり、数百個の単位で生産されて、販売または配布されたようです。販売・配布が社内や流通関係などに限定されていたのか、少数ながら一般向けの市場に出たのかは定かではありません。「マッチボックス・プレミア・コレクション」の中で、州警察のシリーズは量産されたのに対して、この「シティ・ポリス」のシリーズは結局量産されませんでした。 シリーズとして量産するとなると、もっと他の街(シティ)のものも作る必要があると思われるので、そのあたりの問題だったのかもしれません。 こちらは、「プリ・プロダクション・サンプル・モデル」、本当の「試作品」という説明で入手したもの。 左はダイキャスト地の無塗装ですが、上にクリア・コートをかけているようです。注目すべき点として、「マッチボックス・プレミア・コレクション」用の、ゴム・タイア付きメッキ・ホイルを履いています 右は、生産品で「プレイセット」に同梱された、白/黒塗装のもの(MB54-K39)と同じデザインですが、ボディ側面のマーキグはプリントではなくインレタ状のもので処理されています。量産品では、屋根上と、リア・ウインドウ周りのピラーも白塗装され、屋根上に「D-19」のコールサインがプリントされましたが、このサンプル・モデルでは黒が残されています。リア・ウインドに、小さな赤い「Matchbox」ロゴのデカールが貼られていますが、量産品にも同じプリントがあるようです。 個人によるカスタマイズ作品であっても仕方のないような個体ですが、過去にもプリ・プロダクション・サンプルを購入したことのある出品者でしたので、信頼して購入しました。裏板は、2台ともしっかりカシメられています。 これもプロモーショナルではなくマテル純正で、「マッチボックス・コレクティブル」の「D.A.R.E.」カー・シリーズのもの。ホイルは「プレミア」仕様ではなく、通常のものを付けています。 「D.A.R.E.」は、Drug Abuse Resistance Education program (薬物乱用防止教育プログラム)の略で、アメリカの薬物乱用防止キャンペーン名称です。モデルにはプロトタイプとなった実車の写真のカードが添付されており、各市警察などにキャンペーン活動用の「D.A.R.E.」カーが実在していて、モデルはかなり忠実にこれを再現していることがわかります。 左の黒いモデルが、ニュージャージー州・ワナーク市警、右がメリーランド州・ランドーバーヒルズ市警。 同じく「D.A.R.E.」カーで、左がインディアナ州・ラフィエット市警、右の「炎」のデザインがカリフォルニア州・カーマン市警。 「D.A.R.E.」カーのシリーズには、クラウン・ヴィクトリアだけでなく、カマロなど複数車種がありました。 マクドナルドの「ハッピー・ミール・トイズ」として制作・配布されたもの。 完全不透明(黒プラスチック)のウインド、シートの省略、太いピラー、年少者に危険のないように丸められたドアミラー、「マクドナルドのために生産した」(MFG. FOR McD CORP.)という裏板の刻印、特別なホイルなど、厳密には「MB54-K」とは別のモデルです。 左のモデルはカナダから入手したもので、星の中に赤いメイプルリーフ(カナダの国章)を入れたラベルを貼っています。 中国製ですが、裏板には英語「CHINA」と仏語「CHINE」(シーヌ)の両方のモールドがあります。アメリカ向けのものの裏板も同じになっているので、最初からカナダ展開を意識しているのでしょう。 マッチボックスのクラウン・ヴィクトリア・ポリスのバリエーションが増えてしまったもうひとつの理由は、マテル・マッチボックスが通常品やギフト・セットなどで生産したもの以外に、「カラー・コンプ・インク」(Color Comp Inc./CCI)、「ASAP Promotionals」という事業者が、マテルから供給を受けた白ボディのモデルに、企業や個人の特注プリントをした「特注モデル」を受注する、というビジネスをしたためです。 企業ロゴ入りのものをはじめ、警察署や警察関連団体の記念品などが多く作られました。個人がプリントやシールを貼りつけたようなプライベート・モデルは、バリエーション・リストに含まれないのが通例ですが、「CCI」「ASAP」については、マッチボックス関連団体でバリエーション・リストに収録されるようになりました。ただこれらの中には生産数の少ないものもありますから、時間の経ってしまった現在では、アメリカのネットオークションでもほとんど見られなくなっています。 まず、「カラー・コンプ・インク」(Color Comp Inc.)によるもので、「CCI」と略されます。 ニュージャージー州・ペンソーケンに所在していましたが、後に同じ州内のウイリアムズタウンに移転しました。 プリントは両サイド/ボンネット/トランク/屋根上などにまでおよび、カラフルな印刷加工が可能。 箱は青箱/白箱がありますが、「CCI」「カラーコンプ」が明記されます。 多くの種類がありますが、特注した主体の明確なものから、3点ほどピックアップしました。 左は、2001年9月11日・セブンテンバー・イレブンでの犠牲者へのメモリアルとして制作されたもの(9/11 Heros Tribute Car)で、Matchbox Collectors' Community Hall (MCCH)による特注品。 この場合の「Heros」は消防士や警察官だけでなく、ユナイテッド93便の乗客など、広く一般の犠牲者を含んでいると考えるべきでしょう。MCCHは、フォーラム・サイトの運営をはじめ、毎年「ワールド・コンベンション」を開催するとともに、プロモーショナル・モデルを制作しているようです。主宰者である、アトランタの「マーク・カーティス」から入手しています。 真ん中は、ニューヨーク市警察・第60分署特注品、受注店はニューヨーク州ロングビーチにある「Chase-U Collectibles」というショップで、限定100台。第60分署の関係者への配布品と思われますが、数が余ったのか、受注したショップから入手できました。 右は、I.P.A.(International Police Association/国際警察協会)の特注品で、2001年にネバダ州・スパークス近郊のレノで開かれたI.E.C.「International Executive Council」(国際代表者協議会)を記念して制作・配布されたもの。 I.P.A.は、1950年にイギリスの故アーサー・トゥループの提唱により発足した、警察職員(OBを含む)の友好親善と国際交流を通じて安全で平和な国際社会の実現に貢献しようとするボランティア団体。国連にもNGOとして正式に登録されており、各国の青年警察官が一定期間集まって集中的に研修するプログラムが毎年行われるほか、各国の警察活動を側面から支援するための取り組みや研究を行っています。現在加盟は63か国約41万人で、日本にも「日本国際警察協会」があります。ボンネット上にプリントされているシンボルマーク下の「SERVO PER AMIKEKO」は、エスペラント語で「友好を通じて奉仕する」を意味するI.P.A.のモットーです。 次に「ASAP」(Advertising Specialty & Promo Model)によるものです。 例外的なものもありますが、多くはボンネット、ボディサイドなどへのシンプルなプリントで、ボディの片側にしかプリントの無いものもあります。箱は白箱だけのようで、「ASAP」の明記はありません。 「ASAP」は、ボンネットに企業ロゴだけがプリントされたようなものが多いのですが、これも発注者が面白いものから3点ピックアップします。 左は、ボディ左側だけに「BUFORD PUSSER HOME & MUSEUM」のプリントのあるもの。右側はブランクで、何もプリントがありません。「ビュフォード・パッサー」というのは、保安官の人名です。 テネシー州の州都、メンフィスから東へ90キロほどのところにある「マクネアリ・カウンティ・シェリフ」(McNairy County Sheriff)、およびアダムズビル(Adamsville)の警察署長(ポリス・チーフ)だった人で、1962年から1970年まで在職。「ウォーキグ・トール」(Walking Tall・1973年公開)という映画のモデルにもなった人です。「Walking Tall」は、「胸を張って歩く」という意味ですが、もしかするといま流行りの「ゾンビもの」TVシリーズ、「The Walking Dead」も何かの影響を受けているかもしれません。 ミュージアム(記念館)は、アダムズヴィルの「パッサー・ストリート」という、彼の名を冠した通りにあり、パッサー・ファミリーの使ったオリジナル家具や写真/車/銃/記念品などを展示しています。彼の父親のカール・パッサーもアダムズヴィルのポリス・チーフでした。 真ん中は、「U.S. Costoms」つまり「アメリカ税関」の特注品。 現在の正式組織名は「アメリカ合衆国税関・国境警備局」(United States Customs and Border Protection/CBP)です。財務省・関税監査局、司法省・国境警備隊/移民局などが母体ですが、セプテンバー・イレブン以降、これらが統合されて、2003年に設立された国土安全保障省の中の1部局になりました。現在では「U.S. Costoms」のサイトも「U.S. CBP」の組織名と国土安全保障省のエンブレムを表示しているので、このモデルは2003年統合以前の財務省・関税監査局時代のものと思われます。 右は、嚢胞性線維症(のうほうせいせんいしょう/CF症/Cystic Fibrosis)という、遺伝性疾患の一種の患者さんの治療とケアを目的とする財団(Cystic Fibrosis Foundation)が行っている「Great Strides」というウォーキング・イベントのプロモーション用に、2002年に制作されたもの。 制作者は同財団のイリノイ支部(Greater Illinois Chapter)。 同じくマッチボックスですが、「リアル・トーキン」(Real Talkin')という、「しゃべるミニカー」のシリーズで、商品名は「POLICE CAR」とだけ書かれており車名は明記されていませんが、「クラウン・ヴィクトリア」をプロトタイプにしています。 「MB54-K」とは全く別の金型で、サウンドの再生機構を車体に収容する関係で、車幅の広い妙なプロポーションをしています。 ジョニー・ライトニング、1997年式「クラウン・ヴィクトリア」。 マッチボックスに比べて、スケールモデル性の高いものになっています。上の「リアル・トーキン」と比べると、同じクルマとは思えません。本来のクラウン・ヴィックのプロポーションは、こういうものです。 ジョニー・ライトニングも、この頃から裏板に車名が刻印されるようになりました。 左はノースカロライナ・ハイウェイ・パトロール。 右はイリノイ州、クック・カウンティ、ナイルズ・タウンシップのマーキング。 「ゴールデン・ホィール」というブランドのクラウン・ヴィクトリア。 1989年創業の、香港を拠点とするブランドです。 NYPD、シカゴ市警などのプリントをしており、屋根上灯にも色差しがあるなど、なかなか良くできています。 マッチボックスのクラウン・ヴィックのバリエーションが見つかりにくくなって来た時期に、気になって買い求めました。 左の裏板は「Golden Wheel」ですが、右のモデルの裏板はノーブランドです。 「ゴールデン・ホィール」をさらに誰かがコピーしたものとは思えないので、何らかの理由で、ノーブランドでOEM供給したものでしょうか。 しかし、つくづくマッチボックスのクラウン・ヴィックと「そっくり」なんですね。 左マッチボックス、右ゴールデンホィールです。腰高のマッチボックスの欠点をそのまま受け継いでいます。 左マッチボックス、右ゴールデンホィール。 というより、これはもう、プリントも含めてコピーしていると言われても、仕方のないレベルのように思います。 本論から脱線しますが、比較してみましょう。 マッチボックスは、フロントのバンパーをボディ側と一体で作っていますが、ゴールデン・ホィールはこれを裏板と一体にしています。 この点は違うのですが、長さ、幅、高さはほぼ一致します。また、ゴールデン・ホィールがピラーが太めで少しもたもたしている以外は、窓の形状も実に良く似ています。 いかに同じクルマをモデル化しているとは言え、違う人・違う時期に原型が起こされれば、なかなか、ここまで似ないんですね。むしろ似せようとしても違ってしまうものなんです。窓の形状は、ルーフの高さとか、ピラー位置とか、解釈で違って来るので、そっくりにはならないものなんです。屋根上灯の処理も良く似ています。 極め付けは、裏板の動力系のレイアウトのモールドが、ほとんど同じ…。 やっぱりマネをするならするで、もう少し、さりげなく、やった方がいいと思います。 ただ、マッチボックスのクラウン・ヴィックのコレクションにもまた違ったバリエーションを加えることはできますが。 ゴールデンホィールは、タクシーやポリスカーの4台セット、ペダルカーのモデル、「ペプシ」ものなど、ご覧になったことがあると思います。実はこれ以外にも、どこかで見たことのあるようなモデルがたくさんあります。 レーシング・チャンピオンズ、1997年式のマスタング。 左は「D.A.R.E.」カーで、マッチボックスもモデル化したものと同じ、ミズーリ州サイクストン「公共安全局」(Sikeston Department of public safety)の所属車。 右はカリフォルニア州・シール・ビーチ(Seal Beach)市警。 フロントウインド上に「SALEEN」のプリントがありますが、「SALEEN」は、カリフォルニア州に本拠を置く、主としてフォード車ベースのハイ・パフォーマンス・スポーツカーおよびパーツのファクトリーです。 つまり、これは、マスタングのポリスパッケージではなく、「サリーン・マスタング」ということになります。 マッチボックス、1999年式のマスタング(MB460)。2000年初出の製品です。 左はこれも「D.A.R.E.」シリーズのひとつで、レーシング・チャンピオンズのものと同じ、ミズーリ州サイクストン「公共安全局」のもの。 真ん中の白いモデルも「D.A.R.E.」シリーズ中のもので、ルイジアナ州のウエスト・フェリシアーナ市警の所属車。 左はニューヨーク市警の旧塗装ふうですが、「MBPD」(Matchbox Police Department)の架空仕様。 屋根上灯のあるものはポリスモデルとしての製品化で「MB460」、屋根上灯のないものはシビリアン仕様で、「MB17-I」という違いがあります。 1997年式、1999年式、ともに1993〜2005年生産の第5世代のマスタングですが、1999年に外観デザインの変更が行われ、1964年の初代のイメージをより強く反映させたものになった、とされています。 わかりやすい点では、フロントのグリルの高さが、1999年以降の後記型の方が高くなっているようです。 レーシング・チャンピオンズは前期型、マッチボックスは後期型、ということになります。残念ながらマッチボックスは少し小さいこともあって、後期型の迫力はアピールできていないように思います。 1993年の時点で、フォードがリリースしているポリス・パッケージおよびスペシャル・サービス・パッケージの車両は、次の4種です。 (1)55H・ポリスパッケージ フルサイズの「クラウン・ヴィクトリア」、4.6リッター・V8・SOHC、114.4インチ・ホイルベース、4ドアセダン。 これは1992年のデビュー時から変わっていません。 (2)55A・ポリスパーケッジ ミッドサイズ、前輪駆動の1993年式「トーラス」、3.8リッター・V6、155〜160馬力。 車輛の性能は、市販車から変えられていません。 (3)スペシャル・サービス・パッケージ 5.0リッター「マスタング」。1992年から変更されていません。 (4)スペシャル・サービス・パッケージ 4×4「エクスプローラー」。4.0リッター・V6・オーバーヘッドバルブ・160馬力。 複雑な経緯を経て来たフォードのポリスカーですが、ここへ来て、要求される用途・機能に即して、かなり整理されたと言えるでしょう。機能面で分化した「マスタング」と「エクスプローラー」、そしてミッドサイズの「トーラス」が、新しい流れになっており、これは基本的に現在でも継承されている考え方であると言えます。 クラウン・ヴィクトリアは、ポリスパッケージも含めて1998年にフル・モデルチェンジし、第2世代になりますが、これをモデル化しているマッチボックス、スペックキャスト、グリーンライトともに2000年代での年式をうたっているため、これらは次回「2000年代以降」に持ち越すことにします。(2016/12/3) |
|
|