Nostalgic Patrol Cars Season 2

サンフランシスコ市消防局・第7中隊


SFFD Company No.7






車両・建物・アクセサリー、やはり何でも揃うHOスケール




消防車や救急車のモデルを集めていると、「消防署」をミニチュアで再現したい、という気持ちになってくるのですね。
これは古今東西同じであるらしく、レズニー時代のマッチボックスや、古くはテクノもティンプレート製の消防署を製品化しています。現在でも欧米では、1/43や1/76の消防署のペーパーキットが売られていたりします。

「消防署」を再現するには、建物、車両のみならず、人形、消防装備などの小物のアクセサリーを、統一スケールで揃える必要があります。しかし、1/43、1/64、1/32など、どのスケールをとってもこの条件は満たさないのです。「このスケールは、こうやって遊ぶもの」という妙な「常識」が普及してしまっているからです。
各種スケールで精巧な人形を製品化しているドイツ・プライザーですら、1/43の消防士のフィギュアをいまだに出していません。

残る選択肢は、鉄道模型での国際的な標準スケールである1/87、英国型のスケールである1/76、アクセサリー類の充実して来ている1/35あたり、ということになります。

以下は、1/87スケールで、少し古い年代のアメリカの消防署を製作したレポートで、今回の「消防車館」の開設にあたり、旧コンテンツの中から消防署関連の部分だけを再録することにしました。

そして、1/43〜1/35ぐらいで、VWやテクノの消防車を並べることのできる消防署を作る野望は捨てていません。
(2017/1/3)





消防署のキット



消防署キットは「モデル・パワー」というブランドのもの。全く普通のプラスティック・インジェンクション・キット(通常のプラスチックモデルと同じ状態)です。

かつて、HO鉄道模型の世界には妙なセオリーがあり、

-ドイツでは、鉄道車両も建物(ストラクチュア)やアクセサリーもプラスチック
-アメリカでは、鉄道車両はプラスチック、建物・アクセサリーは木製・ホワイトメタルなどの複合素材
-日本では、鉄道車両は高価な真鍮製、建物キットはほとんど無く、専ら自作に頼る

という状況が長く続いたのです。アメリカや日本は「プラスチックモデル大国」であったにもかかわらず、プラキット型式の建物アクセサリーが無く、プラスチック製はドイツ製品だけだったのです。


日本製の真鍮製完成品車両は、蒸気機関車で数十万円の価格になることが珍しくなく、アメリカ型の完成品で輸出されたものは海外で珍重されましたし、国内では「鉄道模型はお金のかかる趣味」という誤解を醸成するのに大いに貢献しました。
またこうした状況から、欧・米の鉄道模型がレイアウト(最近の用語で言う「ディオラマ」「ダイオラマ」)主体であるのに対して、日本の鉄道模型は「車両」中心という特徴も生みました。車両模型にあまりに細密なディテールを要求するために、建物製品もそれらとバランスをとらなければならず、簡便なプラ製品の普及を妨げた、ということもあるでしょう。一方、ドイツ製のプラスチック・アクセサリー群は、欧州のホームレイアウトの普及に大きな貢献をしたのです。

しかし、ようやく近年になって、日本でもNゲージ基盤に成長してきたメーカーが、プラスチック製の車両群をHOでも作るようになり、またアメリカでもより簡単にレイアウトに設置できるプラスチック製の建物キットが数多く作られるようになりました。


アメリカの「モデル・パワー」もそうしたブランドのひとつで、建物キットだけでなく、建物完成品や鉄道車両類、HOのクルマのモデルも作っています。
かつてはアメリカ製の建物キットというと、駅/機関庫/信号所/給水タンクなどの鉄道施設が中心でしたが、参入メーカーが増えたこともあって、劇場/街頭のショップ/解体中や火災のビルなど、かなり幅広いアイテムが供給されるようになっています。

それと、アメリカ人というのは消防車・消防士・消防署がかなり好きなので(ドイツ人も好きですが)、HOで他のメーカーからも複数の消防署キットが出ています。






消防車のキットについて

「モデル・パワー」の消防署のキットには「オマケ」として2台の消防車が付属しており、それが1920年代ぐらいのものになっているのですね。ただしかなりパーツ数の少ない、簡易なキットになっています。
左右に分割された一体成型の車体を合わせ、車輪とはしごを接着するぐらいのモデルです。

それで、「ハイウェイ・ミニアチュアズ」というブランドが、1/87スケールの精巧なビンテージカーのキットを作っていたのを思い出しました。どうせならこのキットを作って消防署の中に並べたい…。



「ジョーダン・プロダクツ」製・「ハイウェイ・ミニアチュアズ」のキットで、アーレン・フォックスの「ポンプ&ホース・カー」。1920年代後半から1930年代初期の消防車です。

パッケージは、白箱にコピーを貼り付けただけのもの。このブランドのキットは、カーモデラーやコレクターというよりも、アメリカ型鉄道模型のアクセサリーとして重用されます。
アメリカでは、大陸横断型の大きな列車(メインラインと呼ばれます)だけでなく、狭い線路幅(ナローゲージ)の森林鉄道や鉱山鉄道などのテーマが好まれるので、古い年代のアクセサリーは必需品なのです。

パーツ数は多く、極めて繊細ですが、おそらくは簡易インジェンクション(金型を使わずに樹脂型を使うもの)ではないでしょうか。黒ビニールで被覆されたリード線が入っており、水利確保用の吸管に使います。





組み立て説明書は、一生懸命説明してくれてはいるものの、パーツの正確な接着位置が結局よくわからない、という難点があります。
シャシに、前からポンプ/エンジンフード/運転席/荷台(ホース収容部)を並べて行かなければならないわけですが、最後にツジツマが合わなくなったらどうしようという恐怖感があり、位置決めに難儀します。



この「アーレン・フォックス」が最も大きく、全長で約80mmあります。ポンプをエンジンルームより前に載せた姿です。



アメリカの消防車(実車)のメーカーの老舗である、アメリカン・ラ・フランスの1924年式。
キットが新しいようで、3台のキットのうちでは唯一、ヘッドライトや車体後部のカンテラ用の透明パーツが付属します。
全長約65mm。

デカールは、「ありもの」を流用していて、キットには付属しません。
このブランドの製品は情景アクセサリーに徹しているため、車輪が回転するようにはなっていません。車輪が回転しても、かえって情景の中で勝手に走り出して事故を起こすのが関の山だからです。アクスルは繊細で、完成後にあまりいじっていると、車軸を折ってしまいます。まぁ、これぐらい小さなモデルであれば、仕方のないことではあります。



最も年式が古く、1913年のT型フォード・ベースの消防車。
非常に小さなキットで、車体全長で40mm、後ろに突き出しているハシゴの後端まで入れても48mmしかありません。
このサイズではエアブラシも何もなく、全て筆塗りで、その方が塗装に厚みが出ます。

結果的に1910年代から1930年代前半までの車両群ということになりますが、多少古い年式の車両を退役させずに使い続けている、ということにさせてもらい、1920年代〜30年代前半ぐらいの時代設定ということにします。


本来「HO」というのは「Oゲージの半分(Half)」の意味で、幅16.5mmの模型線路を使用し、アメリカ/ドイツ/フランスなどで1/87、日本では1/80、イギリスでは1/76(OOゲージ)のスケールを標準とします。日本では線路の幅が狭く、イギリスでは線路の幅は国際標準軌ですが車両断面が小さいためです。そのため、模型レイアウト上では1/76〜1/80〜1/87の車両が並存することは(国際的には)許容されます。

もちろん最近は日本型1/87・12mmゲージがあったりして、こだわりマニアの「許容範囲」は極めて狭くなっているのですが、現在ほどにHOの自動車モデルが普及していなかったころには、レズニー・マッチボックスのクルマがHOレイアウト用のアクセサリーに使われていたりしたものでした。



これは、消防署キットに付属していた架空の消防車に、ドイツ製消防車キットの余剰パーツ(ライト/ホースリールや金属線など)をたくさん付けたもの。かなり車体が長く、96mmあります。






内部を作り込む誘惑に逆らえない



消防署ですから、当然1階はガレージになっているわけで、覗くことのできる範囲で、ある程度のインテリアが必要になって来るのですね。

それで、プライザーなどのドイツ製HO消防車に付属していたハシゴ、ホースリールなどをできるだけ掻き集めて内部に並べることにしました。



しかし内部を満たすためにはそれだけでは足りず、プライザー製のオフィス什器、日本製・エコーモデル(1/80)のアセチレン溶接セット/脚立/ドラム缶/木箱などを買うことに。



1階の内部を作ったということは、やはり2階・3階にもインテリアが必要なのではないか…。
このキット、壁面が1階〜3階の通しになっておらず、2階床・3階床が用意されており、重箱式に重ねられるようになっているのですね。つまりこれは、「内部を作れ」ということなのでしょう。

やはり消防署なので、当直用の仮眠室から「すべり棒」で1階に降りられるようにした構造を作りました。

プラ板で作った階段が、ペコペコしていて良くないですね。手すりが曲ってしまっています。



仮眠室に隣接して、食堂と休憩室を設置。

ジョン・トラヴォルタが署長役で出演する「炎のメモリアル」(原題・Ladder 49/ジェイ・ラッセル監督・2004年)という映画があり、消防署内部や消防士の生活をかなり克明に描いていたのですが、残念ながら録画を消してしまっており、記憶に頼ることになりました。
『タワーリング・インフェルノ』は火災現場のシーンは多いですが、署内のシーンはほとんどありません。



プライザー製の「テーブルと椅子」、「食器と料理」のセット(キット)を利用。ベッドは木片と紙で自作したもの。

消防署キット自体には、内壁のレンガ・パターンのモールドと、床板はセットされていますが、室内壁を含めてあとは何にもついていません。外壁内側に室内壁を入れられるような切込みが入っていることから、何か別キットでインテリアのセットされたものがあるのかもしれません。

建築模型ではないので、構造材や壁の厚さ、設備系の配管などは一切無視します。



プライザー製のアクセサリーのせいで、食堂関係がやたらに充実してしまいます。
床面にパターンのある紙を敷いた方が良かったか、とも思うのですが、そうすると小物や人形をプラ用接着剤で固定することができなくなり、痛し痒しです。



「1/87の便器」をアメリカのネットオークションで探しましたが、さすがにそれはなく、プラ材から削りました。



続いて3階。一番奥を「署長室」、その手前を「指令室」、右側を「資料庫」としました。

「オフィス什器」など、プライザー製のアクセサリーはだいたい1960年代以降の「現代」を想定して作られています。したがって、「オフィス」のセットにはFAXやコピー機などが入っていますが、当然時代設定的にこれらは使えません。

おおむね1920年代で何があっただろう、と考えつつ、アナログのタイプライターはOK。
NHK『坂の上の雲』では、既に陸軍は日露戦争直前で隊内用野戦電話を使用しており、1920年代では受話器を持つ卓上型の電話機があってもおかしくないようです。



地図を選ぶにあたり、設定をサンフランシコ市/カリフォルニア州としました。
HOゲージのサンフランシスコ・ケーブルカー(動力付き)を買っていて、消防署の前の路面を走らせるという野望を持っているためです。

プライザーの「オフィス」セットには、パッケージの横面に「組織図」や「グラフ」などの壁面掲示物がプリントされいて、これをカラーコピーして壁にたくさん貼りつけると、俄然雰囲気が盛り上がって来ます。
一度スキャンして、インクジェット・プリンターで出力してもOKです。スキャナが無い場合は、スマホで撮影しても、解像度が高いので大丈夫と思います。

ドア類も実は紙です。カーテンについては、紙にパターンを印刷したものがキットに付属します。





更衣室のロッカーは、エコーモデル製のホワイトメタル・パーツです。1/80日本型ですが、とりあえずロッカーならアメリカとの違いはないだろうと思って使いました。

アメリカの刑事ものや『ER』などで、よくロッカールームが登場するので、それらのシーンに触発されています。壁にかかっている衣類もプライザーの「オフィス」セットのものです。



屋上には伝書鳩小屋を設置。同じ「モデル・パワー」製の他のキットから流用してきたものです。
消防署で伝書鳩を使っていたかどうか確証はありませんが、軍用などでも鳩は多用されていました。サンフランシスコ市内で、連絡に伝書鳩は使いそうもないですが。

1/87サイズの「鳩」も探したのですが、鶏やアヒルなどはあるものの、鳩は小さすぎてムリのようでした。





建物としての竣工



マーキング類はデカールではなく、紙に印刷したものを切り抜いて貼るようになっていますが、使用したのは、パソコンで自作したものです。

星条旗も、1920年代ですから、現在の50州のものではなく、当時のものを掲げます。
1912年にアリゾナとニューメキシコが連邦に加わって以降、1959年にアラスカが加わるまでの48州の状態で、アメリカは2つの大戦をこの旗で戦いました。
星が、縦・横、ひとつおきにズレずにきちんと並んでいるのが特徴です。

レンガの目地は、いったん壁を茶色に塗ってから、水性カラーの白を塗り、半乾きになったところで布に水を付けて凸部の白塗料だけを落とす、という作業をしています。ただしGSIクレオスの水性ホビーカラーは水で落とせますが、タミヤの水性アクリル塗料は食いつきが強くて落とせなくなり、白がうっすらと残ってしまいますのでご注意。



隣は、同じ「モデル・パワー」製の結婚式場(Marryin Sam's Chapel)を病院に小改造したもの。
さすがに病院にはインテリアは作っていません。ベッドをたくさん作らなければならないので。



壁面の看板類は、ネット上で物色した画像を縮小してプリントアウトしたもの。
ただし1920年代なので、WebのURLの表記などは消さなければなりませんが。





消防署をめでたく地面に設置完了



スイスに「LUNA」という模型メーカーがあり、路面電車専用の組み立て式軌道を作っています。
これを組み込んで、サンフランシスコのケーブルカーが走行できることを想定したセクション・レイアウトとして、その中に消防署や病院を設置することにしました。

本来サンフランシスコ・ケーブルカーは、線路の真ん中にもう1本溝があって、そこに「ケーブル」が通っており、車両を引っ張っているのですが、このレイアウトでは同じ軌道上を電車も走ることを想定しているので、そこのところの表現は省略することにしました。

消防署は1階だけが地面に固定されており、引き続き2階・3階はとりはずして内部を見ることができるようにしてあります。




地面に設置したことに伴い(つまり配線ができるので)、1階を照明するための電球を仕込みました。
最近はLEDが流行で、球切れのリスクも少ないのですが、どうしても私は電球の明かりが好きなのです。
LEDはどうしても蛍光灯のような人工的な光になってしまうのですね。

欧米の街では光が白熱灯の色をしていて、ガス灯の時代を彷彿とさせるのですが、あの感じはLEDでは出せない気がするのです。



並んでいる消防車の魅力に引き込まれて、消防署の前で動かなくなってしまった子供と、それを引き剥がそうとしている母親の人形を置いてみました。

フィギュアは、プライザー製を多用。ただし塗装済みのセットは大変に高価なので、白モールドの未塗装・大量箱詰めのキットを買って来て自分で塗ります。

この時に大事なのは、衣服の色を意識的に明るくすることです。大体において、プラモデル用として売っている塗料はカムフラージュなどの軍用色ばかりなので、こういうものばかり塗っていると、結局全員が兵隊になってしまいます。特に女性のコスチュームには、思い切って黄色/ピンク/水色/オレンジなどを使うと、情景の中で良いアクセントになって、街全体に活気が出て来ます。

そもそも建物や路面が茶色やグレーなのですから、同じような色をフィギュアに塗ると、情景の中にまぎれてしまいます。その点、プライザーの着色済み製品は良く考えられているので、カタログを参考にしながら塗るのもひとつの方法です。



小改造で作った病院



病院の建物は、消防署と同じ「model power」というブランドから出ている、「Marry in Same's Chapel」を小改造したものです。「Marrying Sam Chapel」というのは実在していて、Charles E. Measels という人が創業した結婚式場のようです。(キットを最初に見た時には葬儀屋さんかと思いました。)

ニコラス・ケイジ主演、マーティン・スコセッシ監督の「救命士」という映画(原題:Bringing out the dead)があるのですが、その映画でニコラス・ケイジが勤務する病院の名前「Our Lady of Perpetual Mercy Hospital」を看板に掲げました。


TVシリーズの「ER」は遂に終わってしまったので、救急搬入口のイメージを模型に残しておくべく、ここにも電球を仕込みました。
「ER」のカウンティ総合病院はシカゴなので、よく雪が降っていましたが。

救急車は「チャペル」に付属していたクルマを改造したものです。
そのままではストレッチャーが車内に収容できないことに気付き、ボディを後ろに延長しました。

上の画像で右端に写っているゴミ缶はアメリカ独特のカタチをしていて、よく映画などに出て来ます。
「Trash Can」といい、これは20ガロン・タイプ、ホワイトメタル製。「trush」というのは米語で「クズ」とか「ガラクタ」の意味です。しかしゴミ缶は6個入り6ドル59セントで、割高でした。

かくして、サンフランシスコの夜も更けていきます。










資料関係



冒頭にも書いたようにアメリカ人は消防署がとても好きなので、古い消防署がたいへん良く保存されており、現在でも現役で稼動している消防署には古い建物もたくさんあります。

古い消防車も保存されていて、町のイベントに自走して出てきたりします。
当然、消防署や消防車に関する本もたくさんあります。


トミカ・リミテッド・ヴィンテージの消防車両モデルを使って、1/64サイズの古い消防署、消防団車庫などを作ることも当然考えるのですが、日野車体のボンネット型の梯子車やいすゞ標準車の古いタイプなど、待っていてもなかなか出て来そうにもありませんし、消防署についてはキットもない、資料や写真集もない、実際の施設や車両も保存されないでは、模型化の条件があまりに違い過ぎ、結局アメリカのものをテーマに選ばざるを得ませんでした。1/64スケールではアクセサリーが何も無いので、瓦屋根ひとつ作るのにも大騒ぎをしなければなりません。
トミカのボディや箱のキズに一喜一憂するようなホビー環境から、いつか脱して欲しいと願うばかりです。




サンフランシスコ市街の古い写真、そしてニューヨークの1940年代をテーマにした写真集。

サンフランシスコ/ニューヨーク/シカゴなど、アメリカの都会は海・水の情景を持っているところが多いですが、サンフランシスコはパシフィック(太平洋)、ニューヨークはアトランティック(大西洋)という大きな違いがあって、それぞれの天候や風土に大きな影響を与えているような気がします。

東海岸は、大西洋をはさんでヨーロッパとつながっている、という感じがしますが、カリフォルニアはそういう感じが全然しません。



     




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